the pillows 『HORN AGAIN』全曲感想・後編

HORN AGAIN(DVD付)
前編はこちらです(http://d.hatena.ne.jp/mikadiri/20110209)

06.Sad Fad Love

このアルバムにおける僕的ベスト・ギタープレイを聴ける曲です。テレレロレロレロレレと印象的な前奏はもちろん魅力的ですが、特に僕がイチオシしたいのは歌が始まってからサビに至るまで、控えめに曲を彩るギター。とても優しい音です。真鍋氏のプレイは、ゴリゴリなロックナンバーよりも、こういう大人しめの曲で際立つと常々思っています。「Sad Fad Love」はまさに本領発揮といったところ。音自体はドライというか、ちょっと乾き目な感じなのですけれど、メロディ自体にみずみずしい力があって、非常に心地良い時間を僕に提供してくれます。英語詞の歌であることもプラスになっているかもしれません。さわおが何歌ってんのかようわからんので(笑)、ボーカルも楽器のひとつとしてサイドギターと対等に響いてくる。うん、いい曲です。ただ歌詞カードを見ちゃうと、「heard」を明らかに「ヒアー」って発音しちゃってたり、フォールインラブフォーだったり、色々首をひねってしまう要素が浮かんでくるんですが、真鍋氏のギターに耳を傾けてウットリしていると、だんだんどうでもよくなってくる。歌メロは非常に好きなんですけどね。ハモリ入れる箇所や音程も独特で面白いですし。「アーイノウ」って「イ」が上がるとこなんて結構グッときます。
あと佐藤シンイチロウ信者としてはドラムスにも言及しておかねばなりません。基本はザ・エイトビートといった感じですけど、やはり要所要所でチラっとカッコいいプレイをする。41秒あたり(「Is that because I'm in love?」のあと)で聴ける一瞬のオープン・ハイハットなんてニクイ。サビに突入するときのフィルインも、なんでもない普遍的なフレーズなんですけど、スネアのタイミングが僕の感性と全く一緒なんですよね。初めて聴く曲でも、「おっ、サビだなここから」ってなんとなくわかるじゃないですか。そんとき自分勝手なタイミングで首振ってたら「タンタン・ツタン・ツタン」ってフィルインと完全に一致してビックリしました。これ眉唾でなく本当の話。どんだけ俺は佐藤ドラムを愛しているのかってセルフツッコミをかましたくなりました。2コーラスめでもニクイプレイをさらりと入れてきたりして、ほんとあの風貌からは想像できない極め細やかさであります。大好き。別冊マーガレット風に言うと、だいすき。

07. Nobody Knows What Blooms

色々と音が遊んでて、にぎやかな印象を持った曲。今度はベースが聴きどころ。サビ以外ではベースが主役なのではってくらい前面にでてきたミックスが施されています。エフェクトかけたベースってあまり好きじゃないんですけど(シールドをアンプに直繋ぎ萌え派)、この曲ではアリかなと。なにせ文字どおり「ベース」になっているので、多少音をぶっとくしておかないと曲自体がしんなりしてしまう。イメージ的にはベースという「幹」に、ギターやその他もろもろのSEが「葉」もしくは「花」としてくっついてきてる感じ。タイトルとか歌詞を読んでこじつけをしたわけじゃないですよ、一応(笑)。ずっとハネ気味だったベースが最後らへんでルート弾きに移行するのはベタですけど上手い演出です。あとですね、もはや「うるせーよ」ってお思いになるかな、佐藤シンイチロウさんがいいスパイス効かせてくれているんですよ。細かく抜き出すとそれだけで文章パンパンになってしまうから自重しますが。もう冒頭の「タン!」でこちとら「アン!」ですよ。感じますよ。ビショビショですよ(ピロウズ感想を書くときは下ネタ避けようと思っていたのにしんちゃんの馬鹿野郎)。

夜も決して目を閉じないのは / 僕と魚だけ
夢が地上に落ちる瞬間を / 見続けてるんだ

好きな歌詞です。この歌で残念なのは、サビが英語であること。日本語でこんないい歌詞かけるんだからサビもなんとかしてほしかった。このアルバムでのさわお英語はいつにも増して発音がデロデロで何を言ってるのかが本当にわからない(笑)。「just」の「t」を発音しちゃってるのも、細かいことだけど気になっちゃう。英語詞にしたいのか、それともカタカナ英語でやりたいのかどっちなの。いい曲なだけに気になる。

08.EMERALD CITY

わりと軽めの曲が続いてきたのでここらでロック一発! なアルバムとしてのバランスをとっているエメラルド・シティ。某ミッシェル・ガン・エレファントピロウズフュージョンしたらこんな楽曲出来ましたみたいな。酷い例えだ。他バンドを引き合いにだして評価するのは山中さわおが一番嫌うことであるぞ! よし、率先してやりましょう(最低)。この曲に関してはあまり書くことがないかもしれません。カッコイイとは思いますがね。普通にカッコイイ。ピロウズのロックバンドとしての地力をそのまま発揮している。

09.Brilliant Crown

アルバムの中で唯一といっていいゆっくりめの曲。

誰一人覚えてない / 記念碑を壊す夜
信じてた誓いの旗 / 破れてもう黙ってる
こんな日が来る事も / 覚悟していたけれど
曝されて奪われて / 空っぽになって震えてる

本当は全部書き出したい。ひとりぼっちの「王様」にスポットをあてた寓話的な歌詞によって若干マイルドになってはいますが、山中さわおの吐き出す毒の量が半端ではありません。ここ数年のアルバムにも「孤独」を歌う曲はありましたけれど、この王様の物語からはポーズではない本気を感じます。ピロウズ解散するんじゃねーのかオイオイと焦ってしまったくらい僕の心にはズシズシきました。「雨上がりに見た幻」からたった一年でここまで対極に位置する曲を発表するものか? 幻は結局のところ幻にすぎなかったのか? 普段は歌詞に対しての深読みを避けて音楽を聴こうと心がけているのに、ボーカルを目立たせる曲のシンプルなアレンジのせいもあるのか、歌が入り込んできてしまう。「誰の記憶にも残らないほど鮮やかに消えてしまうのも悪くない」と強がっていた頃とは違い、多くの人の「記憶」に残ってしまったがゆえの、残り続けていく難しさ。『HORN AGAIN』には「迷う」という言葉がちらほら出てきます。以前の自分を超えられるともちろん信じているけれど、本当にそれができるのだろうか。できているのだろうか。山中さわおは今揺れているのではないでしょうか。他人を音楽で振り向かせることはできた。でも自分はどうだ? あの頃の自分は今の自分を見て「いいじゃん」と言ってくれるだろうか? んなこたーわからないわけですよ。答えなんて出ないわけですよ。胸の中に「輪郭のない月」のような掴みどころのないものが住みつくんですよ。誰だってそうです。それをギターを使って引っ張り出すのがミュージシャンなわけで、これだけ僕に響く曲を書いてくる山中さわおは間違いなく正しい。どれだけ迷ったってピロウズで音楽作ってさえいれば正しい。たとえそう思うのが僕だけだとしても。全肯定する。なにせ僕が出会った初めての、そしておそらく最後の「僕のための」バンドなのだ。どれだけショッパイ曲を作っても構わないから、ピロウズでいてほしい。そんなことを思いました。

10.Doggie Howl

ラストはデリシャスレーベル移籍直後のヌードルスを思わせるようなギターで始まるナンバー。ギターソロの締め部分が好きです。ジョーワッジョワッジョーワジョワジョッ。またしても酷い擬音で申し訳ない。佐藤ドラムも、もはや言うまでもなく素晴らしい。ドラムス的クレッシェンドが本当にうまいですよね。曲を支え導くリズム。「ウイーイーウー」も良し。終わり方も潔い。良いアルバムのラストに良いロックンロールあり。とまあ、曲調はポップなのですが、これまた歌詞カード見ると凄い。『HAPPY BIVOUAC』のラスト「Advice」なみに、いやそれを凌ぐほどキレてます。「Advice」は曲もキレてたので、わかりやすい。あーはいはいさわお人間ちっちゃい(笑)、と笑い飛ばせました。しかしこちらは一見温厚で実はナイフ隠し持ってます的怖さがある。ほんと、いったい山中さわおに何があったのでしょう。これほど中指をピンと立てて敵対心をあらわにしている彼はひさしぶりです。カッコイイ曲なのでライブで聴くのが楽しみなのですが、「イエー!」とか言って喜んでいいのでしょうか(笑)。ま、歌詞から深読みするのはもうやめにします。ネガティブな想像をしたって無駄なだけです。カッコイイ曲。それでいい。それでじゅうぶん。ロックバンドなのだから。

最後に

以上、僕の偏見たっぷりの『HORN AGAIN』全曲感想でございました。長くなってしまいましたけど、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。「何をほざいてんだこいつは」と思った部分もあるでしょう。どうかご勘弁ください。ただの感想です。アルバムの総括をここで書こうと思っていましたが、もう全部残らず出しちゃったみたいです。『HORN AGAIN』、いいアルバムです。ライブも早く見たいものです。それでは皆さん、新木場STUDIO COASTで僕と握手! また会う日まで。ピロウズ好きだぜ。

the pillows『HORN AGAIN』全曲感想・前編

HORN AGAIN(DVD付)
ザ・ピロウズのニューアルバムが発売されてからおよそ二週間が経過しました。皆さん聴いてますか? 僕はもちろん聴いてます。おはようからおやすみまで聴いてます。もう何回「ハロー」され「グッバイ」されたかわかりません。これから長々と全曲の感想を書こうと思うのですが、その前にアルバムの総評といいますか、全体的にどんな感じかってのを言っておきましょう。良いです。とても良いです。前作『OOPARTS』もなかなか好きなアルバムでしたが、この『HORN AGAIN』はそれ以上に気に入っています。ここ数年のピロウズでは文句なしに一番です。でも不思議なことに、飛び抜けた名曲ってのは収録されてないように僕は思います。キャニューフィーだったりアイワナビーヨージェントメーみたいに、今後ピロウズの「定番」として、「代名詞」扱いされるほど目立つ曲はない。しかし、だがしかし、ピロウズでしか聴けないような曲ばかりが並べられています。具体的に言いますと、ピロウズのコンポーザーである山中さわお氏の「いらつき」がビシビシと伝わってくる歌詞が多い。僕は最近のピロウズについて、アルバムを聴いてはいますけどそれだけで、インタビューやらは全く読んでませんので、バンドの状況というものがわかりません。てっきり売上も増えてライブの規模も大きくなってハッピームードなのかと思いきや、『HORN AGAIN』での山中さわおは明らかに、何かに舌打ちをして中指を立てている。意外でした。普通のバンドなら「そんな状態大丈夫なの?」と心配しちゃうでしょうが、ピロウズ、特に山中さわおに関しては全く問題ありません。彼は「叩かれてこそ伸びるタイプ」(僕調べ)。ネガティブモードは大歓迎です。どんどん世の中を信用しなくなってください。負の力をギターでぶちまけてください。そういうあなたを僕は信用します。ツノ再び。うまいタイトルです。ジャケの写真も良し。ただHORN AGAINの文字がデカすぎてカッコ悪い(笑)。

前置きが長くなりましたが、そろそろ全曲感想に行きましょう。日本語歌詞の曲からは僕が気に入ったフレーズを抜き出そうと思います。主に「いらつき」部分。待ってたんだ、さわおがヘコむのを(笑)。

01. Limp tomorrow

平穏が風に乗って / 僕の地図畳むんだ

欠けたままでいたいのさ / 満ち足りないまま

静かに、しかし力強く始まるアルバムです。最初のギターの音色、和音の感じ、とてもカッコイイ。その部分を聴いただけで「このアルバムは良いアルバム」認定していまったほどです(そしてそれは間違いじゃなかった)。ドラムの入りもクールですね。ちょっとハイハットを鳴らしてからビートを刻み始める。バッキングに重なるギターのフレーズもシンプルゆえに良い。とても良い前奏です。さっさとライブで見たい。歌が入ってからもバンドサウンドとのバランスが取れててバッチリ(騒ぎすぎるさわおボーカルは個人的に苦手)。「誘ってくれないか」のとこ、「ホホホホホホホホ」てな具合のギターが好きです。酷い説明。同じとこのベースもキマってる。ギターソロも長すぎず短すぎず、真鍋氏丸出し(特に後半部分)で良い。さっきから「良い」しか言ってない(笑)。でもカッコイイんだから仕方ないですよね。
引用した歌詞は初めて聴いたときにいきなり印象に残りました。「みんな連れてくぜ―イェー」とか言ってた人がいきなりどうしちゃったの。「平穏」というポジティブな状態に攻撃される山中さわお節。「欠けたままで〜」の一節なんて、普通一回目のサビと最後のまとめサビで歌われるはずなのに、二回目のサビにまで出てくる。何回「欠けたままでいたい」んだ。外的要因でなく、己の内側に満たされた心地良い感情に蹴りを入れようとしてる印象を受けます。バンドの状況うんぬんにイライラしてるわけでなく、丸くなった自分に疑問を抱いてるのでしょうか。真意は当然わかりませんが。「リーダーなりたかった / そのあげく迷子」ってのもスゴイ歌詞だ(笑)。いやアンタ、笛吹いてみんな連れてこうとしてたやん、っていう。そのあげく迷ったんかい。いいぞ。もっと迷おうぜ。Let's get lostがピロウズのシークレットスローガンだったはずだ。

02. Give me up!

ノリノリのアップテンポナンバー。リフとバスドラで身体がウズウズしてきちゃいます。その後のドドドドっぷりが気持ちいい。弾けてる。この曲で一番好きなのはなんといってもギターソロ前の演奏です。佐藤シンイチロウ氏は本当に僕好みのフィルインをぶちかましてくれる。ただ単に僕が佐藤ドラムに調教されてるだけっていう可能性も否定できませんが。「ダタタダタタダタダン!ダンダララララララ!」。カッコイイ。またしても酷い説明。曲調だけ聴いてると、最近のピロウズっぽい「オレ絶好調!」なロックナンバーなんですけれど、前の曲で負の感情が地表からオデコ出しちゃってるせいか、「オレ絶好調! のはず!」っていう少しばかりの「つよがり」を感じます。ギブミーアップだし。

罪悪感は飲み干した / 無敵になれそう

なれ「そう」(笑)。

03. Movement

ジャーン! タカタカタカタカからピロウズのイメージとはちょっと遠い感じの、しかしかっこいいギターリフ。前の曲からの繋がりがビシっとキマってる。同じ曲が続いているように聴こえつつ違う曲(当たり前だ)。何が言いたいかというと、シングルなのに全く浮いてなくてアルバムに溶け込んでいるなあと。こういった「流れ」を楽しめるのもアルバムならではです。シングル買ってねえからそう思えるのかもしれませんが(不届き者ここにあり)。この曲、上手く表現できないんですが、なんか好きです。ギターは基本ジャカジャカ弾いてるだけだし、僕好みのドラム・フレーズがあるわけでもなし、ギターソロに入るところは若干野暮ったい。しかし聴いてて「気に食わねーな」と思う部分が不思議と見当たらない。ミックス的にあまり目立たない真鍋氏のサイドギターが効いてるんでしょうか。気持ちいいんですよね。感情として「カッコイイ」よりも「気持ちいい」が先にくる。歌詞はけっこう切羽詰ってるんですが(笑)。晴れた日にまっすぐな道で自転車をシャカシャカこいでたら飛行機雲が見えて、どこにでも行けそうな気になるあの感じ。「My forward movement」。まさに。

僕らは走りだした / 小さな風生み出して

シンプルだけど、とてもいい歌詞だと思います。

04.Lily, my sun

恋はどんなふうに / 胸から離れるんだっけ
思い出せないくらい / キミが好きだよ

まだ四曲目ですが、僕的ベスト・トラック。とてもいい曲です。山中さわおご開帳の片思いラブソング。これも「Movement」と同じで不思議と好きなんですよね。好きな理由がパッと思いつかない。メロディーは抜群に良いのですけれど、バンドサウンド的にフックがないというか、ヒネリがない。でもそれは決して悪い点じゃない。僕は以前のピロウズ感想で、佐藤シンイチロウのドラムに関して「あまり目立ちはしないが曲を活かすためのドラムをわかってる」みたいな偉そうなことを書いた記憶がありますが、この曲はバンド全員が佐藤シンイチロウ状態になっているように思えます。山中さわおが書いたメロディーをシンプルに伝えるために、過剰な装飾を避けている。そしてそれは(僕に対しては)素晴らしく成功してる。曲の構成もストレートです。Aメロがあり、Bメロがあり、サビがあり、ソロがあり。定石通り。結局、旋律を際立たせるには変に色々手を加えないほうがいいんですよね。僕はそう思います。よくオッサン集団ピロウズについて、「いつまでも若い感性をもっててスゴイ」みたいな語られ方をしてるのを見かけますが、年を食ってないと、このメロディーをいい意味で地味な曲に仕上げられませんよ。オッサンが若いふりしてるわけじゃない。徹頭徹尾オッサンバンド、ザ・ピロウズ
サウンド的に聴きどころがないとかホザいておいて、ギターソロがスーパー好きだとこっそり主張してみる。「I love you so, my sunshine」のとこのドラムもスーパー好きです。この曲スーパー好きです。

05.Biography

アゥイエー。僕の中でここからアルバムの後半です(早い)。真鍋氏がライブで腰をいやらしく振ってる図が目にうかぶようなギターの変態具合がたまりません。「キュエー」とか「ええ〜?」とか「ママママムー」とか「テレテレテレテレ」とか、もう言葉を発してしまっているレベルのフレーズ・音色。極まってる。んでそのギターを総括して放たれる「アゥイエー」(ちょっとオウイエー入ってるのが気に入りませんが・笑)。久しぶりにダサかっこいいサウンドが成功してるピロウズです。「バンドマンのバイオグラフィー」って直接的に言っちゃってるのは少し引っかかりますけど、まあ些細なこと。

思い通りにならない未来を / 塗りつぶして星を落書きした

誰にどんな事を言われても良い
キミ自身がどう在りたいかだ

うむ。

読んでくださった方、お疲れさまでした

全曲感想の前編はここまで。後編はこちらへ(http://d.hatena.ne.jp/mikadiri/20110212)。

 ピロウズ新譜を聴いてます

HORN AGAIN(DVD付)
目を覚ますと、冬特有の控えめな日の光が部屋を照らしていた。ピリっと空気が冷えていたけれども、布団から出難いほどじゃない。トイレに行って、用を足す。“ツマリ”なんて微塵も感じられないくらいの快便だ。手を洗い、顔を洗い、歯を磨く。部屋に戻り、椅子に座る。煙草に火をつける。お気に入りのヘッドフォンで耳を覆う。少しだけ現実が遠くなる。背もたれに身をあずけ、窓の外を見る。ロックンロール日和だ。このうえなく。
やはりロック・ミュージックのアルバムってのはCDを再生し始めてから(もしくはレコードに針を落としてから)10秒以内に「カッコイイ!」ってニンマリできるものがいい。ピロウズの新作『HORN AGAIN』を聴き始めた直後に持論が正しいことを再確認した。僕好みのテンション感を持った音色のギターにドラムとベースがかぶさっていくだけで笑顔。笑顔笑顔。僕がまだ知らない音楽を、僕の好きなバンドが新しく届けてくれる。幸せなことだ。今日の朝から聴き始めたので、まだ構成がどうとか小難しいことは考えられるまでには至っていない。まずはアタマに聴かせることより、耳に聴いてもらうのが先だ。一周したらまた最初から再生し、じっくり染みこませていく。気持ちのいい音ばかり。スッと身体になじんでいくのがわかる。いいアルバム。こうやって文章を書いている間にも、ハッとするような音が飛び込んでくる。そんなときは曲名を確認し、ふむふむ、あのフレーズはこの曲ね、なんてニタリとほくそ笑む。僕の中で『HORN AGAIN』を構築する。「ツノ」がある程度硬く、太くなったら、このはてなダイアリーピロウズファン以外お断りと評判の全曲感想を書き始めるのだろう。このツノはどんな形になるのか楽しみにしつつ、今日はこの辺でハローハローハローグッバイ。

2010年 僕オブザイヤー

毎日毎日僕らは鉄板の上で焼かれても構わねーくらい寒い今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。僕はいといえば、暖房のスウィッチを押してもエアコンが反応してくれないという面白イベントに遭遇しており、イヌイット級の耐寒性能を持つべく修行中の身です。とはいえ一朝一夕に植村直己へクラスチェンジできるはずもありませんから、基本的には部屋の中でガタガタ震えております。そんな僕を励ましてくれるのはやはり、ゲーム・漫画・音楽というインドア・エンタテインメントの三銃士であります。前置きが長くなりました。僕の、僕による、僕のための2010年僕オブザイヤーを発表したいと思います。

ゲーム・オブ・ザ・イヤー

スプリンターセル コンヴィクション - Xbox360 スケート3 - Xbox360
どちらもXBOX360ソフト。左が『スプリンターセル コンヴィクション』、右が『skate3』です。前者はサム・フィッシャーというおじさんが、なんか色々あってブチギレ状態になり、その割にはこそこそ物陰に隠れてシコシコ敵を倒していくゲーム。「スニーキング・アクション」というジャンルになりますが、んなこたあゲームに詳しくない人にとっちゃあどうでもいいことですね。いかに見つからないよう進み、いかに裏をかき、いかに気づかれないまま敵を排除できるか。隠れられる場所、登れるオブジェクト、敵の気をそらすための小道具を駆使して注意深く進んでいくのが楽しい。ストーリー上の演出もハリウッド的な派手さに満ちており、物語に没入できます。一人プレイモード自体は10時間もあれば終わるのですけど、その後はオンラインで世界の人々と協力もしくは対戦。知らない人とコンビを組み、連携がズバっと決まったときの気持よさといったらたとえようがないほど。逆に、じっくり攻めたいのにガンガン突撃しては戦闘不能になる脳みそ筋肉ガイジンを頑張ってフォローするのも楽しいものです。
そして『skate3』なのですが、もはやこのゲームのいいところをここでピーチクパーチク言ってもしょうがないですね。三作目にもなると、面白いゲームを求めている人は既にキャッチしているでしょうし。『3』も前作の正当な進化版といった感じで、素晴らしいデキです。とはいえ合う合わないはもちろんあるでしょうから、体験版を見かけたら是非ダウンロードして遊んでみていただきたい。慣れてくると自分が考えているように画面上のキャラが動いてくれます。そういう「繋がる」ゲームって、じつは珍しいのです。WiiKinectなど、直接画面に関われるゲームとは違った全能感。昔ながらのコントローラでしか味わえない感覚は、たしかにあります。
他にも色々楽しいゲームがたくさんありました。僕はXBOX360以外のソフトは遊んでませんが、それでも消化しきれないくらい。WiiPS3にも面白そうなゲームはあるのに、360だけでいっぱいいっぱいです。『電脳戦機バーチャロンフォース』はシンプルながら奥深い対戦ゲームで息長く遊べそうですし、『Halo:Reach』もさすがは大ヒットシリーズだなといった完成度の高い一人称視点シューティング。『End of Eternity』は、日本の開発会社も海外には負けねーぞという意地をみせてくれたRPGでたいそう楽しめました。Windows付属のピンボールゲームにハマった経験のある人なら絶対にやりまくってしまう麻薬のようなゲーム『Pinball FX2』も忘れてはいけません。
ゲームだけでどんだけ語る気だ。

漫画オブザイヤー オトコ編

ベイビーステップ(1) (講談社コミックス)
勝木光ベイビーステップ』。週刊少年マガジンで連載中の本作品は、地味ながら、じつに面白いテニス漫画です。テニスに出会った主人公がきちんと努力する様子をきちんと描き、着実にその努力が報われていく。これ、当たり前のことじゃねーかと思ってしまいますけど、最近の少年漫画でその描写ができているのってかなり少ないです。欠点は地味であるところ。画力がないわけでは決してない。ただ、いわゆる「少年漫画」としては派手さに欠ける。必殺技なんて百八どころかひとつもありません。大ゴマ使って「ドン」もありません。しかし、主人公が一皮むけたところなどの重要な場面では、それが読者にしっかり伝わるように作ってあります。『ベイビーステップ』にとって「地味さ」とは逆に長所であるかもしれません。これからも地道に続けていってほしいものです。

漫画オブザイヤー オンナ編

となりの怪物くん(1) (KC デザート)
最近ヒットする少女漫画のパターンというと、「一般の人には馴染みのない・もしくは敷居が高い何か」と「少女漫画テイスト」をかけ合わせたものが多いように思えます。『ちはやふる』や『のだめカンタービレ』とか。偉そうに言っといてなんですが、その二作品以外思いつかねえ(笑)。掲載誌は少年漫画雑誌だけれど、作者は少女漫画で有名な『ましろのおと』もあるか。競技かるたやクラシックや三味線を深く掘り下げることで、普段少女漫画に興味を持てない人(主に男性)を引き込んでいる。
ろびこさんによる『となりの怪物くん』は、その流れとは全く関係ありません。普通の高校生が普通に繰り広げる普通のラブコメ。ただ、その「普通」を、ものすげえ僕好みのキレイな絵で描いている。正直、「無理あるだろ―」って展開があったりもしますし、キャラクターの性格があっちいったりこっちいったりしてて、ストーリーとしては散漫としています(その点、「普通ラブコメ」の大ヒット作『君に届け』とは比べられないくらい)。しかーし、だがしかーし、そんなん気にならない。僕にとって少女漫画というのは、いかに「絵」でゴリ押しできるかのもの。印象的なヒトコマがあればそれでよい。ある意味画集を見るときの感覚に似ているかもしれません。僕の好きな絵柄で、僕の好きなラブコメをやっている。それ以上何が必要か。

音楽オブザイヤー

NEW MARS 何度も恋をする
6月にmy way my loveの『NEW MARS』(左)を試聴したときは、「あーこれもう今年一番だわ―」と思ってしまったのですが、その一ヶ月後にスクービードゥーの『何度も恋をする』(右)を聴いてびっくりしてしまいました。僕が昔から追いかけている二つのバンドが、同じ年の同じ時期に両者ともキャリアハイともいえる素晴らしいアルバムを出してくるとは。驚愕驚喜。音楽の路線としては全くの別物ですし、甲乙つけられるわけがなく、どちらもオブザイヤーとするほかありませんでした。マイウェイの『NEW MARS』は、ロックが好きな人なら絶対に聴いておけとしか言えないくらいの好盤。1曲目のド頭から「あ、このアルバムは良いものだ」と思えるなんて、なかなかできない体験です。轟音ギターでズンズンオラオラのイメージが強いと思われるマイウェイですが、実はそんなことはなく、非常にポップセンスにも優れたバンドであることは、これまでの作品からも聴きとれました。『NEW MARS』は轟音とポップのバランスが実にいい具合に取れています。自信を持って他人にススめられるマイウェイって、実はこれが初めてかもしれない(笑)。このアルバムについて単独でちゃんと記事書かないとなー。近いうちに。ええ、近いうちに。
そしてスクービー。これまた1曲目のド頭からズッポリはまりました。僕の求めていたスクービーが、おったのです。ここ最近、「ファンカリズモー」だかなんとか言って、ロックとファンクの最高沸点がどうとか主張していたスクービー。ヒネクレものの僕はそういう口上を「うるせー」としか思っていませんでした。変な造語なんて使わなくたってスクービーがファンキーでロックなバンドであるのはわかりきっていること。音楽だけでわからせてやればいいのに、そしてそれが出来る数少ないバンドなのに、と残念な気持ちになったりもしていました。発表する曲自体はずっと変わらず素敵なものばかりだったんですけどね。
『何度も恋をする』には、今書いたような「音楽を聴く上で余計な要素」が無いんです。スクービードゥーという素晴らしいバンドが、素晴らしいラブソングたちを、スルっとカッコよく演奏している。これだけで十分。最高ではありませんか。果てしなくキャッチーでありつつ、音楽マニアも唸らせる要素もそこかしこに散りばめられている。インディーズ時代の『Beach Party』も似た路線でしたが、比べてみるとバンドの成長がわかります。「ときめいたら そこへゆけ」「オウイエッ!」これで十分なんです、ほんとに。

ピロウズオブザイヤー

今年はなんと一度もピロウズのライブに行ってません。なんという。そもそもライブ自体、マイウェイマイラブしか行ってないんですけれど。そんな僕がピロウズオブザイヤーなんておこがましいんですが、『GOOD DREAMS』というアルバムの曲をよく聴いてました。残念なデキであるアルバムの中に(あくまで僕個人の意見ですよ!)、光る曲がちらっとあります。「オレンジ・フィルム・ガーデン」とか、地味にいい曲ですね。ちょっと歌詞がさわお的言葉遊びでこねくり回してあるのがイラつきますが(イラつくって何様か・笑)。ダサカッコイイを目指すと普通にダサくなってしまう『smile』以降のピロウズで、この曲のギターフレーズは成功している部類ではないかと思います。なのでオブザイヤーは「オレンジ・フィルム・ガーデン」で。「焦る僕をからかって / うまく話せない」。サビの歌詞はいいんですよねえ。「現実逃避グローリー」って何言うてますのんっていうだけで。

終わりに

やはりスーパー長くなってしまいました。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。ゲーム・漫画・音楽、今回紹介させていただいた中のどれかひとつでも、興味を持ってくださったのなら幸いです。今年もまた、良いものにたくさん出会えますように。それでは。

 僕と乳母

10月だよ君たち。多数の死者を出した紅白歌合戦からもう10ヶ月も経った。時の流れは早い。更新の間隔がとんでもなく空いてしまった。皆さん僕のことが気になって7時間くらいしか睡眠がとれなかったことだろう。ここに謝罪したい。押すな、押すな。キミの僕は逃げたりしない。ファン(FUANと発音)が多いのも困ったものだ。昼時に駅前なんかに行くと、大量の人間がうじゃうじゃいたりしてね、ため息よため息。プライベートの時間は尊重してほしい、とお願いしているせいか誰も話しかけてこないけれど、目も合わそうとしないけれど、警官とチンピラはなんかこっちをジロジロ見てくるけれど。とにかく疲れる。アイム・タイアードである。タイアードマンだ。でも君たち、いくらこっちが自分の時間を大切にしたいと言ってるからって、雨の日に滑ってこけて「オブウ」と苦しむ僕のことまで放置する必要はないんだ。背中がすごく痛かったんだ。立ち上がろうとしてまた滑って変なふうに手をついて「アイッチ!」ってなっても皆スルー。スルーピーポー。あの日から手首が少し紫色なんだ。傘はコロコロ転がっていく。神無月だからか。神がいない月だから僕はこんな目にあうのか。こけたの9月だけど。優しさがほしい。優しみがほしい。優しみエデュケイションが必要だ。人とのふれあいが、優しみにつながっていく。
というわけでTwitter始めてました(http://twitter.com/mikadiri)。基本的に誰ともふれあいません。この雑文のタイトルは、「オクトーバー」のダジャレです。基本的にそういう意味のないことをつぶやいていきます。基本的にフォローする必要性を僕ですらあまり感じません。僕と乳母。詩集を出すとしたらこんなタイトルがいい。

my way my love@下北沢Heaven's door 06/06/2010

僕にとってこのあいだの日曜日は特別な日だった。ドラマティックだった。「チ」を「ティ」と書くくらい。なんとかあの日の興奮や感動を伝えたいのだけど、どうにもこうにもうまく言葉が出てこない。なので、ドラマティックな日のことを、あえて普通の日記として残すことにした。変に飾ったりして僕の気持ちをもねじまげてしまったら元も子もない。my way my loveという、僕が大好きなロックバンドの話。


日曜日の下北沢は思ったとおり人で溢れかえっていて、いつもの僕ならば「人間が漢字どおりに『人』っていう見た目なら少しはすっきりするのに」などとむちゃくちゃなイチャモンを心の中でつけたりするのだけれど、この日はたいして気にならなかった。というか、マイウェイのライブを見に行くときはいつでもそうだな、と思う。彼らが「ハズレ」のライブをしたところなんて見たことがない。終演後はいつも「やべーマイウェイやべー」状態である。この日も数時間後にはハッピーが保証されている。guaranteed to raise a smile。人混みなんぞでイライラするはずがない。むしろ街行く人々が、みな楽しそうな顔をしているように見えてくる。休日をそれぞれ謳歌しているのだろう。しかし残念、2010年の6月6日を最も楽しむのは、たぶん僕だ。
ライブが行われる場所を確認に行く。現地に着いて僕はびっくりした。盛大に音漏れしている。とあるビルの2階にあるバーが会場だったのだけれど、階段を昇って入り口まで近づかなくても、リハーサルの様子がはっきり聴きとれた。「バーだ」と僕は思った。防音設備がきっちりしているライブハウスではない。普通のバーだ。ライブ時の音のデカさでは他バンドの追随を許さないほどうるせえマイウェイであるのに。大丈夫かしら、とのび太調で心配した。でもそれは一瞬だけで、まあ大丈夫だろ、とすぐに思い直した。なにせ保証されている。しかもヘヴンズ・ドアという名のバー。扉を開ければそこはもう天国なのだ。開演が待ち遠しい。近くのミスタードーナツで時間をつぶしているあいだも、頭の中はマイウェイでいっぱい――というわけでもなく、ポン・デ・リングの食感を堪能したり、前の日に見た『相棒』再放送での激昂した杉下右京の震え方をマネしてみたりしていた。「はいぃ〜?」のモノマネは似ているとよく言われるのに、キレた右京さんは全く似せられないのが悔しい。更なる研究が必要だ。そしてんなことはここに書くことじゃない。
ヘヴンズ・ドアの中は、ゆったりしていた。バーカウンターがあり、ソファーがあり、奥にこじんまりとしたステージがあった。本棚には洋書がみっちりと並べられている。外国に瞬間移動したような気分だ。おしゃれな雰囲気に田舎モノの僕はすっかり舞い上がってしまった。飲んだこともないコロナ・ビールを注文してしまっても無理はない。飲み口にぶっ刺された柑橘類コレどうすんねん、とテンパり、この日初めて話したナイスガイに飲み方を教えてもらった。ビールをひとくち喉に流しこむと、微量のアルコールが身体に染みていき、ふわふわしていた気持ちを落ち着かせてくれた。と同時に、家にいるような心地よさだ。自分の家ではない。でも他人の家でもない。何を言っているのか自分でもわからない。とにかく「家」だ。いい店だ、と思った。
まだイベントが始まってもいないのにこの長さ、先が思いやられる。と言いたいところだが、実はライブ本編についてはそれほど詳細を書くつもりはない。リハ中にやっぱり下のお店から苦情が来て音量を下げざるを得なかったとか、その音量が通常のマイウェイとはあまりにも違うので思わず笑ってしまったこととか、ピッキングの音が聴こえるライブが逆に新鮮でカッコイイとか、とにかくアットホームな雰囲気のなかで時間が過ぎていったこととか、みんなが笑顔だったこととか、コロナうめえとか。印象に残っているシーンは枚挙にいとまがない。なんせ「家」で好きなバンドのライブを観ることができたのだから。今でもあれは夢だったんじゃないかしらと思う。僕があそこにいた時間全てが特別でプレミアムだった。そんなん余さずに書いてたら「いいや2ページほどやる!」では済まない。言うまでもなく楽しかったのだから言うまでもないのだ。詳細を楽しみにしていた人には申し訳ない。
ただ、8月に出るマイウェイのニューアルバムはとんでもなく良いものだ、ということは声を大に、はできないので、キーボードを叩く音を大にして書いておきたい。カチャカチャ。聞こえますかこのタイプ音。そもそもこのライブ――というかイベントは、先日マスタリングまで終わった新譜を僕らリスナーに早く聴いてもらいたいという思いから急遽決定したらしい。出来立てホヤホヤのアルバムを1トラックめから順に、ほぼフルで最後まで聴かせてくれた。途中、ライブで演奏できる曲に関しては即座にその場で披露。なんと嬉しいサプライズだろうか! 9年前に渋谷クラブクアトロピロウズオープニングアクトとして登場して「Air Cruiser」で僕の度肝を抜いてからというもの、ライブのたびに期待を遥かに上回る音を届けてくれてきたマイウェイマイラブの、最新を最速で体感できたのだ。そして当然のごとく、僕の「マイウェイ像」をあっさりぶっ壊してしまった。マイウェイでありながらマイウェイでなく、でもやっぱりマイウェイ。そんな禅問答的な感想を書くことしかできない自分が情けない。1曲目からむちゃくちゃカッコイイのだ。おそらく発売後に全曲の感想をうざいくらいにぶちまけることになると思う。「ポップなアルバムを作ろうと思った」とギター・ボーカルその他の村田氏はおっしゃっていたが、まさにそのとおりのデキで、マイウェイはこれまでも一貫してポップではあったけれど、壁を一枚吹っ飛ばした感がある。「この壁の向こう行ったらマイウェイじゃなくなるかなー」っていうギリギリの線をあっさり飛び越えてしまった。でも着地してみたらやっぱりマイウェイでしたという感じ。着地もバッチリ決まっていて10点満点。……駄目だこれ、伝わらない。早く皆さんとこの思いを共有したい。ファンはもちろん、まだマイウェイに触れたことがない人にもぜひ聴いてほしい。ロックが好きなら大丈夫。むしろ音楽が好きなら大丈夫レベル。その時歴史が動いたレベル。どんなレベルだそれ。とにかく僕はそれくらい衝撃を受けた。ただ一つ不満があるとすれば、発売までの2ヶ月間どうすりゃいいんだっていう贅沢な悩みくらい。イベント終了後にそのまま飲み会みたいな感じになったのだけど、太っ腹にもBGMとして新譜をエンドレスリピートしてくれたので、そりゃもう僕は耳をバンビにして聴いた。覚えて帰ってやる。せっかくメンバーの方々がいらっしゃるのだから思いのたけをぶちまければいいのに、シャイな僕にはそれができず、とにかく聴いた。途中0時を過ぎたあたりで眠気がMAXになり、起きてるのか寝てるのか自分でもわからないあやふやな状態になりながら聴いた。眠気が去ったあと「Golden Monkeys」という曲(リンク先はマイウェイのmyspace)がかかったときに、ベースの入りがめちゃくちゃカッコイイです、とベースの大さんに伝えることができた。僕にしてはかなり思い切った行動だ。ほんとはもっともっと伝えたいことがあったけれど、二歩目は踏み出せなかった。後悔。でも飲み会では村田さんや大さんが話していることを聞いているだけで刺激になった。バンドやってるわけでもない一般ピーポーが「刺激を受ける」だなんて少しおこがましいか。でも受けたもんは受けたのだ。バカ話の中にも、ふっと僕の中に滑り込んでくる言葉があった。
ニューアルバムのタイトルは『New Mars』。誰も本物を見たことがない火星の、新しい姿。僕もいつか自分なりの宇宙服を着て、大気圏を突破してやろう。新しい世界を見てみたい。帰りの電車でうつらうつらしながら、『New Mars』の曲を思い出しつつ、そんなことを思った。

幸せは歩いてこない だから超追う。超。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE.【通常版】 [Blu-ray]
『新劇場版ヱヴァンゲリヲン 破』が届いたので見た。見終わり、また見た。また見終わり、またまた見、ようとして、腹が減っていることに気づいた。もう昼だ。とりあえず煙草に火をつけて一服しつつ、これを書き始めた。この映画が好きすぎる。なんでこんなに気に入ってしまったのか自分でもよくわからない。二十数年間生きてきたうちで、片手で数えられるほどしか映画館での鑑賞をしたことがなく、「映画とか、家で一人で見てェーシ。人がいっぱいいるところとか、だりィーシ」とメンドクサガリヤの最前線を行く僕の「片手」のうち指二本は、この『破』で折られた。エヴァンゲリオンという作品にそこまで特別な思い入れはないはずなのに、一度鑑賞し終えたあと、ボロボロ泣きながら「もう一回見よう」と自然に思った。エヴァのドストライク世代であるにも関わらずリアルタイムでTV放送を見ていないくせに、「この映画は俺のために作られた」とさえ思った。余談ではあるが、エヴァ放送時、僕は『ナデシコ』をこよなく愛する典型的星野ルリ少年であった。僕にとってエヴァは遠い世界での出来事で、隣にはいつも星野ルリがいた。星野ルリは正義だった。バカばっかとつぶやく彼女に「君もじつにバカだぜ」と言いたかった。もう一度もう一度生まれ変わって会えたなら今度はあなたの一番になりたかった――と、すぐ脱線するのが僕の悪い癖だ。しかも読者を遠のかせる方面への脱線。話を戻そう。
そんな僕であるけれど、とにかく『破』が好きなのだ。いい映画かどうかはわからんが好きなのだ。ストーリーやセリフなんぞわりとどうでもよく、映像と音楽がとにかく僕の感性にぴったりはまった。「そりゃないだろう」と思ってしまう演出がない。使徒の動き、エヴァの動き、カメラの動き、それらを優しく、ときに激しく包み込むバック・グラウンド・ミュージック。僕的名シーンの連続である。映画だろうが小説だろうが漫画だろうが、そんな「マイ琴線タッチもの」に出会えることはそうそうない。ミーハー上等である。はてなIDを「mihadiri」に変更することもいとわない。そんなめぐりあいに感謝したい。「。」を打つと同時に腹が鳴った。いいからなんか食わせろと内臓が僕をせきたてる。昼メシ何にしよう、と考えてみる。モワモワと浮かんでくるのは『破』のタコさんウインナーであった。内臓、ごめん。もうちょっと待ってもらうことになりそうだ。ウゴゴだなんて、そんな声で泣かないでおくれ。僕の頭はいま『破』でいっぱいらしい。ウゴゴ。ごめんて。

ここで唐突に「僕的名シーン」をみっつ挙げてみようと思う。ネタバレになるのでまだ見てない人は帰ろう。

1.マヤさん出勤シーン

「山下警部のテーマ」が流れる、第3新東京市の朝を描いた場面。最初に映画館で見たときから印象的だった。そりゃもう強烈に印象的だった。インターネットのマジックによって、このシーンで使われている曲が『太陽を盗んだ男』という映画のものだと知り、速攻で『太陽〜』のDVDを買ってしまったほどだった。朝日に照らされる近未来的な何か、土手、レールの切り替え、電車、マヤ、ニューバランスウィダー的な何か、伸びるビル、信号機、歩道橋、友達、コマツ文具店、学校、日常。テクノロジーとノスタルジーが絶妙のバランスとタイミングで映し出される。何もかもが僕的に完璧だ。チャプター13から頭出しできるもんだから、ついつい再生してしまう。映画史上最高のインターバル。と、映画を大して見ない僕が言っても説得力がゼロである。特典のフィルムでこのシーンが出たら死んでもいいと思っていたが、今僕は死んでいないので、まあそういうことだ。

2.エヴァ三体がクラウチングスタートから走り出すシーン

空から降ってくる変な人に待ったをかけにいく前半の山場。『破』に限らず、エヴァ作品全般において、山と高圧線の鉄塔が描かれるシーンは総じて良いものになる(ただ僕が、「自然」と「大きな人工物」の組み合わせが好きなだけなのだけれど)。スピードを落とさず曲がるために競輪のコースみたいなものが出てきて、そこを初号機がガンガンガンガンと走るところが一番かっこいい。CGってすごい。僕にとっては謎の技術。初号機のスタート場所がダムの前で、零号機は採掘場ってのもいいね。雄大な自然に溶け込まず居座るスケールのでかい人造物ラブ。

3.“シンジさん”

月並みでありふれた感想ではあるだろうけど、「綾波を、かえせ」以降は何故か涙なしには見れない。ジャイアンに勝ったのび太を見てボロボロに泣くドラえもんと似たような心境だろうか。「ドラえもんが安心して……帰れないんだ!」に勝るとも劣らない熱さ(F氏ファンの僕にとっては、これ相当な褒め言葉です)。ストーリーとかわりとどうでもいいなんて言っておきながら、コロリと手のひらを返す僕。

4.綾波とメシ食ってるとき、いやに素直な碇司令

メシ。そういえば腹が減っていたのだ。3つ挙げるとかいってナチュラルに4つめいくところだった。内臓がグゴゴゴうるさいし、なぜが膀胱も暴行を始め、肛門まで活火山になりかけてきたので、このへんで終わろうと思う。とにかく僕は『破』が好きだ。寝る前にもう二、三回、マヤさん出勤シーンを見ようと思う。ラーメンズ風に言うと、伊吹マヤの貴重な出勤シーン。