二周年小説
玄関先で朝刊を開き社会面の訃報欄を情感たっぷりに音読していると、自転車に乗った男がベルをちりんちりんと鳴らしながらゆっくり近づいてきて僕のすぐ横に停まった。すぐ横というのは誇張じゃなく本当にすぐ横で、すぐ横すぎて彼の鼻の穴の中の毛の枝毛ま…
じっくりコトコト煮込んだスープをもう一回じっくりコトコト煮込んだらどのくらいじっくりコトコト煮込んだスープになるのだろうかと思った俺はさっそく実行に移そうと考えコンビニ目指して自転車をこぎだしたところ道端から犬が飛び出してきたのでうわお前…
二級河川で溺死しかけていたわたしを助けてくれようとしたのは犬かきが上手な男だった。彼はあまりに犬かきが上手だったので、わたしは思わず「おじょうず」と言って手を叩いてしまった。溺れないようにバタつかせていた手を叩いてしまったのでわたしは深刻…
「わたし、高校を卒業したら上京して篠塚になる」 ことし18になるひとり娘が、夕食の席でいきなり宣言した。ことし50になる私はその時咀嚼しようとしていた肉じゃがを喉に詰まらせて窒息死しかけた。生きていればことし75になる祖母が三途の川の向こう側から…
アリジゴクの巣にダイエットペプシを流しながら微ほくそ笑むのはあまりいい趣味とはいえないわね、と先生に怒られた。若くて、綺麗で、スマートで、おしとやかで、きらびやかで、つまびらかで、学校のみんなはその先生に憧れていた。当然、僕だってそうだ。…
明日は遠足なので僕はてるてる坊主を作ることにした。てるてる坊主さえ作っておけば気象庁の偉い人が多少強引な手を使ってでも天気を晴れにしてくれるの、とお母さんが教えてくれたからだ。お母さんの言うことはいつでも正しい。でも僕はてるてる坊主がどう…