THE WHO 『 TOMMY 』

僕は大学でビートルズ系のサークルに入っていて、まあこの年にしては筋金入りのビートルマニア(この言葉嫌いだ)なんですが、周りは僕以上に逝っちゃってる人ばかりなんですよ。ビートルズだけでは飽き足らず60年代のロックを聴き漁っているような人が沢山。当然フーも人気があるわけで、僕がフー話を気楽に出来るのはそのサークルの人といるときだけなんです(普通の音楽ファンじゃフーを知ってる人は少ない)。
で、この『トミー』。69年発表の4thアルバムですが、周りのフー好きの間では敬遠されまくっております。「二枚組みのロック・オペラ」という肩書きが皆を尻込みさせるのかどうかはわかりませんが、「トミー熱いよ」と僕が言うと、「あれはちょっと……」と言われてしまう。もうね、アホかと。馬鹿かと。「トミー」こそフーのエッセンスが最大限に凝縮された傑作アルバムだろうが! 僕は声を大にして言いたい。
まあ気持ちはわかるんですがね。フーのファンというのは大きく二つに分けることができて、一つは初期ビートルズや初期キンクスやスモールフェイセズやパンクなどが好きなビート・バンドとしてのフー・ファン、もう一つは後期ビートルズなんかが好きな総合的ロック野郎としてのフー・ファン。これはフーの音楽性がキャリアを追うごとにガラリと変わることに起因する現象です。『マイ・ジェネレーション』と『フーズ・ネクスト』ではほとんど違うバンドですからね。フーが日本で大きくブレイクしない理由もこの辺のとっつきにくさがあるのかもしれない。
で、『トミー』だ。この作品は「ロック・オペラ」なんて呼ばれていますが、決してクイーンのように様式美な音楽ではなく、やってること自体は骨太バンド・サウンドですよ。ギター・ベース・ドラム以外にはホーンくらいしか使われてませんしね。スタジオ・ワークに傾倒したものというより、むしろライブ用に作られたものといえます。実際ライブでフーは演奏してますしね。
何が言いたいのかというと、初期フーが好きな人こそ、敬遠せずに『トミー』を聴けということなのです。キース・ムーンの千手観音ドラムは健在ですし、ピート・タウンゼンドソング・ライティング能力はますます磨きがかかっていますし、ロジャー・ダルトリーのボーカルがようやく存在感を露にしたりして、まさにザ・フーザ・フーとして動き始めたアルバムなのですよ(ジョン・エントウィッスルの変態的高速ベースは少し控えめですが)。僕はいまだに「Overture」が鳴り出すと震えてしまうし、「Amazing journey」で空高く昇ってしまうし、「Pinball Wizard」のイントロでゾクゾクと総毛だってしまいますし、「We're gonna take it」の絞めで拳を突き上げたくなってしまいます。そのくらいのパワーを持っているんです。
個人的には『四重人格』よりこのアルバムのほうが入りやすいと思います。さあ、画面の向こうの「フーはマイジェネだけでいいよ」とか言っちゃってるアナタ、今すぐレコード屋に走れ! そして『トミー』を買うのだ!