THE WHO 『 A QUICK ONE 』

mikadiri2003-12-08

ザ・フーのセカンドアルバム。彼らのキャリアの中では地味な扱いを受けるこの作品ですが、聴きどころは満載です。というのもこのアルバムにはメンバー全員が自作曲を寄せているからで、そのメンバーは全員変態なわけで、つまりバラエティに富んだ変態ナンバーが聴けるというわけですよ。普段はピート・タウンゼンドがほぼ全ての曲を書いているのに、何故そのようなことになったのかというと、バンドの経済状況に原因が。ライブのたびに楽器やアンプを破壊し、修理代がおっつかなくなっていたところに、当時のプロデューサー、キット・ランバートが「お前ら全員が曲書けば印税前払いしてやる」と持ちかけたのです。金に困りまくっていたザ・フーは当然その話に乗り、『ア・クイック・ワン』という彩り豊かな、ある意味ではごたまぜな、なんとも形容しがたいアルバムが出来ました。楽器破壊するロックスターも楽じゃないですね。
当然統一感は皆無になるわけですが、メンバーそれぞれの個性がにじみ出ていて非常に楽しいです。ベーシスト、ジョン・エントウィッスルは「ボリスの蜘蛛野郎」(投げやりな邦題)というベースを前面に出した曲で自慢の長低音ボイスを披露。ドラマー、キース・ムーンは「I NEED YOU」という綺麗なメロディーラインをもったラブ・ソング(途中に語りまである)を提供しますが、サビの盛り上がりどころでシンバルを力の限り叩き狂いメロディーをかき消しちゃったり、インスト・ナンバー「Cobwebs and strange」ではこの世のものとは思えない速度でスネア・ドラムを叩き狂います。ロック界最狂ドラマーの実力を見せつけた感じ。今聴いてるんですが、なんだこの曲(笑)。変態すぎ。必聴ですよ。
これに負けじとバンドの中心人物ピートも頑張ります。「RUN RUN RUN」はアルバムのトップを飾るにふさわしい疾走感に溢れていますし、タイトル曲「A QUICK ONE(WHILE HE'S AWAY)」は後の傑作『トミー』に繋がる9分の大作ロック・オペラ。ストーンズ主催の「ロックンロールサーカス」でフーはこの曲を演奏し、それがあまりに凄かったためにミック・ジャガーの機嫌が悪くなったというのは有名な話。
中でも「SO SAD ABOUT US」。超名曲。これを聴くためだけにアルバム買えや、と道行く人をナイフで脅しても犯罪にならないくらいの名曲。フーらしい、身体が自然とタテノリしてしまうようなポップ・ナンバーです。メロディー、コーラス、ギターリフ(ピート得意のコードをかき鳴らすタイプのリフで、しかもAのadd9とsus4を使うという、以後のポップ・ミュージック界で定番となるフレーズ)、ドラムのノリ、全てが一体となって僕のストライク・ゾーンを直撃。ザ・ジャムナンバーガールがカバーしてることからも名曲っぷりが伺えますね。
思えばフーを初めて聴いたのはこのアルバムでした。友人が「カッコイイから聴いてみそ」と貸してくれたのがこれで、そのときは「変なバンドだなあ」としか思わなかったものです(その後『ライブ・アット・リーズ』で本格的にハマる)。フーへの入り口を用意してくれた友人にはホント感謝の一言に尽きますが、冷静に考えてみると、このアルバムを入門用に貸すアイツは相当の変態だったということになりますな(笑)。きっと彼も「いいから『SO SAD ABOUT US』聴けよコラア!」って気持ちだったのかもしれませんね。