ZAZEN BOYS 『 ZAZEN BOYS 』

ナンバーガール解散後、向井秀徳が組んだバンドZAZEN BOYS。正確にはナンバーガール活動中も存在してたりするんですが、単独音源は初めてなのでまあデビューと考えてよろしいでっしゃろ。都内某所に設立されたMATSURI STUDIOというスタジオで4 track professinalによって録音されたこのアルバム、いったいどんな音が鳴っているのか。興味津々、聴きました。聴きまくりました。ここ3日間、これ以外の音源を全く聴いておりません。部屋にいれば座禅、出かけるときもウォークマンで座禅、バイト中も脳内で座禅。座禅座禅座禅、まさに座禅一色。ヤラれてしまいました。


M-1Fender Telecaster」のイントロで既にノックアウト。まさに「これから始まるのであります」的な力強い音。かと思ったら急に静かになり、静かになったと思ったら揺れて揺れて揺れて、不意打ちのように向井のファルセット・ボイス。なんだこの曲は。しかし無条件にカッコよい。向井がどっかで「今度のアルバムはカーティス・メイフィールド的なかんじ」みたいなことを言ってたんですが、ファンクなノリのことではなく、この裏声のことだったのですね。まず聴いて笑ってしまいましたよ。
M-2「USODARAKE」。PVも作るくらいですから、ある程度重要な曲であることは間違いありませんね。けっこう構成面で整った曲です。聴きやすいってことですね。「ユーエスオーディーエーアールエーケーイーーーーハッウソダラケ、ウソダラケ」が耳から離れてくれませぬ。
M-3「The Days Of NEKOMACHI」。どっかで聴いたようなフレーズが。このイントロのドラム・フィルは、「NUM-HEAVYMETALLIC」のアレをスローにしたやつですね。ベースラインも、ギターリフも、向井的フレーズ。普通に良い。
M-4「YURETA YURETA YURETA」。イントロがもう、大好き。ズダッタ、ズダッタ、ズダッタ、という微妙にずれたリズムがタマラン。まさに「揺れる」。向井の念仏も冴える。ナンバーガール時代より念仏が洗練されてますね。途中の急な展開はどうかとも思いますが、その突拍子の無さもZAZENの持ち味なんですかね。
M-5「COLD SUMMER」は、去年の夏があまりに寒かったから作った曲らしいです。いわゆる「ナンバーガール的」な楽曲を求めるのなら、この曲が一番ではないでしょうか。静かなアルペジオから激しいドラム・フィルイン、そしてバンド全体に盛り上がっていくところはこれぞロック・ミュージックな感じ。かなり横揺れビートですね。向井の絶叫も冴え渡ります。
M-6「開戦前夜」。静かな開戦前夜。静かに、尖る。途中のドラムソロ、これはジャズっぽくしたかったんでしょうか。あまりカッチリきてないような感じがしました。しかし長いドラムソロが終わったあとに、「開戦前夜のこの感じ」と呟かれると、やはり痺れますねえ。
M-7「INSTANT RADICAL」。カウントで笑った。「産・経・読・売」でしょうか。で、タイトルが「インスタント・ラジカル」でしょ。曲自体はそんなに印象に残ってません。ベースがグイングインうねってるあたりが聴きどころか。
M-8「MABOROSHI IN MY BLOOD」。ライブで唯一盛り上がりやすそうな、向井お得意の「こんがらがってるインマイブレイン」系楽曲。ギター・リフのジャッキジャキなテレキャスター具合が格好よろしい。
M-9「IKASAMA LOVE」。残念ながらあまり印象に残ってない。他の濃すぎる曲に押しつぶされちゃってます。この曲も十分濃いんですけど、それ以上に周りがイッチャッてるので。吉兼ギターのやる気の無い音は意図的なんでしょうか(笑)。高音を絞って細くしてありますね。この辺、ひさ子ギターを求める人には違和感があるかもしれません。
M-10「SI・GE・KI」。もともと女性シンガーに歌ってもらうっていう企画で生まれた曲(だったと思う)なんですが、こんなハガクレた歌詞じゃ女性シンガーは引くでしょうよ。「真っ昼間ガール」くらいならともかく。ベースラインが曲を引っぱってます。アヒト先生の手数の多さがいかんなく発揮されてます。
M-11「KIMOCHI」。カーティス・メイフィールド第二弾。ゆっくりめのテンポのはずなのに、なぜかドラムとギターが狂っている。32ビート? 向井先生の裏声はKIMOCHI悪いですね。いや、いい意味ですよ。ライブだとかなり長尺になるのですが、CD版はかなり潔く終わっちゃってます。ライブを先に見てしまったものとしては、物足りなさを感じるのも事実。
M-12「WHISKY & UNUBORE」。ナンバーガールの「FU・SI・GI」に似た不思議さ。この曲の見せ所はやる気のないコーラスでしょうか。「ワンカップー」とか「ヨッパライー」とかドスの効いた声でやられても。これはギャグなのか。僕はギャグと認定して笑いましたけど。途中からなんとなくソニック・ユース的フレーズが。
M-13「自問自答」。最後を飾る曲であり、間違いなくこのアルバムのハイライトでしょうね。カウントは「冷・凍・都市・から」。ギター・リフの音色がカッコよすぎます。これこそテレキャスターの本領発揮といった感じのジャリジャリ具合。切れ味良い。「冷凍都市の暮らし あいつ姿くらまし」というお決まりのフレーズを唄うのは、これは機械音でしょうか。クイック・ジャパンの付録CDとして録音された「NUM-AMI-DABUTZ 猫街バージョン」でも使われてましたね。その無感覚ぶりが冷凍ぶりを増しているような感じ。それ以外はとりあえず聴け、としか言いようがないですね。タイトル通り「自問自答」であり、向井がひたすら念仏を並べ立てるだけですから。しかし物凄い迫力であります。名曲。


総評:MATSURI STUDIOにはMATSURI STUDIOなりの良さがあるんでしょうけれど、やはりtarbox road studio(デイブ・フリッドマンのスタジオ)に比べると、ドラムの威力が足りない感じを受けますね。全体的に音に響きが足りないような気がします。エフェクターで作り出すリバーブではなく、空間的な広がりですね。アヒト・イナザワ大好きっ子の僕にとって、不満と言えなくもない。
しかしこれがZAZEN BOYSの良さなんでしょう。ナンバガは良くも悪くも四人が勝手にやっていた、という感じがあります。キャラがたっていたというんでしょうか。曲によってはメンバー一人が他の三人を引っぱっていたこともありました(『INAZAWA CHAINSAW』がわかりやすい例)。それに比べるとZAZEN BOYSは、四人が対等にバンド・サウンドを形作っているように思えます。まとまっているというんでしょうか。カッチリ、というかなんというか。非常にクレバーに、計算的に組み立てられた初期衝動サウンドとでもいうんでしょうか。
僕はこのアルバムが好きです。音の重厚さはライブに軍配があがりますけども、長く聴き続けることは間違いないでしょう。次のリリースも決まっているようだし、どんどん僕らを揺らせて欲しいものです。しかし、この路線はあまり突き詰めると袋小路に潜り込んでしまうような、そんな不安も抱かせるアルバムでありました。あ、あとジャケットは0点。雑誌にのっけられた広告はカッコよかったんですが……。