REMEMBER 16

押入れの中からFIRE BOMBERのアルバムを発見したので聴いてみた。とても良い。と、読者の皆様の99.99%はいきなり「FIRE BOMBER」とか言われてもわけがわからないだろう。それもそのはずだ、FIRE BOMBERというバンドは、厳密に言えば地球上に存在しない。というか三次元に存在しない。「マクロス7」という十年くらい前に流行った(と思われる)アニメーション番組の中に登場するバンドなのだから。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、僕はヲタであった。不細工で、暗くて、猫背で、スポーツが苦手な中学生男子に現実の女の子が振り向くはずもなく、えてしてそういう時期に、非モテの男はヲタになる。二次元世界に逃避するのだ。僕がヲタだった時期は中学生の後期から高校のはじめにかけてのころだったが、その時に出会ったのが「マクロス7」という作品だった。衝撃だった。何が衝撃って、悪い人たちを歌でやっつけるのだ。ミサイルとかビームじゃなく、歌だ。正義の味方が歌を唄うと、悪役が「やーめろー」とか言って苦しみだすのだ。僕は大いに笑った。アホかこいつら、と笑った。しかし、作中で登場人物が歌う言葉は、この上なくまっすぐだった。
熱気バサラ、というとんでもないネームを持つ男が主人公なのだが、そいつは人に己の歌を聴かせることしか頭にない、根っからの音楽馬鹿だった。悪役と戦うのだって、銀河の平和を守るなんてことは二の次で、まずは歌を聴かせるのが目標だった。「俺の歌を聴け!」というのが彼の口癖だ。僕はそんな彼の歌に魅了された。この上なく前向きなメッセージに、背中を押してもらった。ギターをやってみようかな、と思ったのも彼の影響である。こういうことを書くと気持ち悪がられるだろうが、本当なのだ。僕は糞真面目に、二次元キャラに憧れていた。
いつしか僕はアニメーションやらなんやらのオタク文化から遠ざかり、今度は音楽にのめり込むようになった。ピロウズと出会い、ビートルズの魅力にようやく気づき、バンド活動に没頭した。夢中だった。もし音楽の素晴らしさに触れることが出来ていなかったら、僕はダメになっていただろう。FIRE BOMBERの音楽は、今になって聴いてみると、ハードロックにヘビメタを混ぜました、みたいな陳腐といえなくもないサウンドなのだけど、僕の心の奥に、確かに残っている。