the pillows 『TURN BACK』 全曲レビュー

正直、舐めてました。「カバーアルバムなんて大したもんじゃない」って思ってたんですよ、ついさっき、つまりこのアルバムを聴くまでは。僕が馬鹿でした。ごめんなさい、『TURN BACK』カッコイイです。単なる企画盤の位置におさまらず、ザ・ピロウズの、れっきとしたニューアルバムとして成立してます。全部で6曲と、ちとボリューム的には物足りないような気もしますが、ピロウズファンには間違いなくオススメです。
さてそれでは恒例の、全曲感想。長くなりますよ。
M1『LIBERTY』。95年作品。これは未発表曲であり、よほどコアなピロウズファンでない限り初めて聴くことになると思います。当然、僕も初めて聴きました。ホーン・セクションを大胆に用いたド級のポップさに、一発で気に入ってしまいましたよ。そのホーン音はピロウズギタリスト真鍋氏が打ち込んだものなんですが、「機械的な音にならないよう苦労した」と言うだけあり、なかなか自然な音になってます。原曲を聴いたことがないもので比較しようがないんですが、あまりディストーションをかけすぎずカッティングを効果的に使ったバッキングギターに、第二期ピロウズの面影を感じます。「午後の空に隠れてる星のように / 優しい暗闇を待っている」という歌詞が、とてもよい。山中さわおのこういう言語センスは、今も昔も変わらず僕の心にグっときます(今はちと微妙ですが)。
M2『Tiny Boat』。96年作品。さあ来ましたよ。このセルフカバー祭り、一番の目玉といっていい曲です。というのもこの曲、96年にシングルで発売されたきり、アルバムに収録されることなく宙ぶらりんになってしまい、シングルも廃盤になっちゃったりして、ファンにとっては一種の「幻の名曲」だったのです。廃盤シングルが高値で取引されてる現状をどうにかしようという想いがこのセルフカバーに繋がったのでしょう。ありがたいことです。山中さわおはこの曲のことを「売れることを目的に書いた」と言っておりました。売れ線狙いだけあってポップです。
冒頭からキラキラしたギターリフが耳を捉えて離しません。「フゥーフフー」なんてファルセットまで入っちゃったりして、初めて聴いた人は「どうしたピロウズ!」なんて焦るかもしれませんが、これもピロウズです。アレンジはほぼ原曲どおりですが、全体的に音がパワーアップしてる印象を受けます。ギターのカッティングもそうですし、ドラムもそうだし、山中さわおのボーカルもそう。これは意図的なアレンジというよりも、バンドが成長したことの自然な表れと取るべきでしょう。それにしても、普通に名曲です、これ。後奏の盛り上がり具合がたまらない。そしてフェイド・アウト。ああー。いいわァ。
M3『あの頃に戻って』。コレは89年作品。ということは結成当初に作られたということですね。これまた未発表で、このセルフカバーアルバムにおいて初めて日の目をみた曲です。前二曲から一転して落ち着いた曲調。なんかNHK教育テレビで使われてそうなホンワカさです。「眠れない退屈な夜に / 部屋でラジオつければ / 懐かしいヒット曲が / 耳にすべり込んできてしまった」という歌詞。すべり込んできて「しまった」って。何か笑ってしまいました。山中さわお得意の「振られてしまったけど諦めきれないよ」系ソング。
M4『キミと僕とお月様』。91年のシングル「雨に唄えば」のカップリング曲。ゆっくりめの曲が続きます。山中さわおの若さ爆発というべき歌詞にご注目。演奏自体も落ち着いていて、ゆりかごに揺られているみたいで心地よいです。しかし、まったりとした流れに身をゆだねていると、いきなり大サビが来てびっくりします。びっくりってほど曲調が激変するわけじゃないですけどね。ライナーノーツで山中さわおが「曲そのものと演奏はいいんだけど、歌がちょっとなあ……と後悔している曲も結構あって」と発言したことが書かれてますが、おそらく歌い直したかった曲の上位に「キミと僕とお月様」は入るのではないか、と思います。皆さん、彼の歌声を聴いてあげてください(笑)。
M5『WANT TO SLEEP FOR』。「MOON GOLD」というメジャーデビューアルバムに収められている曲です。60〜70年代の正統派ブリティッシュ・ロックといった感じ。原曲とあまりアレンジは変わっていません。「ターミナル・ヘブンズ・ロック」よりこっちの方がカッコイイのではないか、というくらいロックンロールしております。「手頃な気休め飲みほして / 部屋中空ビン並べてボーリングでもしようか」という逆ギレ気味の歌詞が曲調にマッチしてていい感じです。ギターもジャキジャキしててカッコイイですね。関係ないけどこの曲のタイトル、「one two three four」と掛けてるのは知ってましたけど本当に「ワン・ツー・スリー・フォー」って読むんですね。オビを見て初めて知りましたよ。
M6『僕らのハレー彗星』。さあやってきました、これまたこのアルバムの目玉。92年作『ホワイト・インカーネイション』に収められた、前々からファンの間では人気のある名曲です。山中さわおがパーソナリティを努めていたラジオで行われたピロウズ人気投票でも、この曲は10位にランクインしてました。さわおは「お前らなあ、こんな昔の曲じゃなくてももっと他にあんだろうがよお」と苦笑してましたけどね。
これも「Tiny Boat」と同じ感じで、基本的なアレンジにはあまり手を加えず、現在のバンドの運動神経でもって力強くカバーしてます。結構ギターサウンドが前面に出ています。原曲の音作りのほうがラブソング的なきらびやかさとでもいうんですか、そういうのは出てたと思うんですが、その辺は賛否両論あるでしょうね。まあ十何年前と同じことやったって意味はないんだし、僕はこのカバーに純粋に興奮したので、これでイイということにします。今からライブで聴くのが楽しみ。


やっぱり長くなった。アルバム全体を通しての感想はまた後で書きます。