V.A.『シンクロナイズド・ロッカーズ』

mikadiri2004-09-23

ザ・ピロウズ結成15周年記念事業のひとつ(事業っつーのも大げさですが)、トリビュートアルバム。ピロウズがトリビュートするんじゃないですよ? トリビュートされるんです。まあ僕はこの「冷蔵庫のない生活」においてリリース決定直後からずっと騒いできたわけで、「何を今さら」と思われるかもしれませんけど、もうねえ、返す返す愉快ですよ。ピロウズが、あのピロウズが、オリコン50位以内に滑り込むのが精いっぱいなくらい一般的支持を得ていないピロウズがトリビュートされるんですぜ? 痛快だ。発売から一週間経った今も、なんかむず痒い気持ちが残ってます。いや、僕がそんな気持ちになる必要はないんですけども。
トリビュートアルバム自体については、それほど、僕が求める「刺激」はありませんでした。ある意味正統派なギターバンドであるピロウズを、面白くカバーするのはなかなか難しいことです。どのバンドも、それなりに持ち味を活かしてカバーしているのですが、あまり枠をぶち破っていない印象。いえ、それでいいと思いますよ。大切にカバーしているのが伝わってきますし。ピロウズ愛は十二分に感じます。でもね、一つだけ言わせていただきたいのは、なんつーの、「俺にカバーさせろ!」っつーの? いやいや石とか槍とかハンマーとかアヌシュとか投げないでください。なんだかんだいってピロウズファンって、「俺が一番ピロウズをわかってるんだ!」って思ってるもんでしょ? 個人的なバンドっていうかね。だから僕にカバーやらせてようん(猫撫で声)。
前口上にもなっていない文章はここまでにして、それぞれの感想を。一応言っておくと、僕はピロウズ原理主義者です。あくまで、「はじめに原曲ありき」の姿勢を貫きます。

「RUNNNERS HIGH」ストレイテナー
一曲目を飾るのは、今が「旬」なストレイテナー。持ち味を活かしたカバーだと思います。でもそれほど僕には響かない。ストレイテナーはライブで3回ほど見てますが、そのとき「ううむ。」と思ってしまったこともあり、そのような先入観がはたらいてしまっているのかも。原曲においては「疾走感」というものが大事だと思うのですが、それが少し欠けちゃっているような気がします。その場で力強く大地を踏みしめているようなAメロでのギターカッティングやリズムパターンがあってこそ、原曲の持つ、サビでのスピード感が生きてくるような気がするのですが、テナーはそこをアレンジしちゃってますからね。しょうがない。
「Funny Bunny」ELLEGARDEN
こう見えても僕がピロウズで一番好きな曲は「Funny Bunny」なわけで、そのカバーを他人がやるのだから厳しいですよ。――とはいいつつも、このアレンジはいい感じでした。歌メロはほとんどいじらず、サウンドだけ自分流。曲を大切にしている感じがとても伝わってきます。しかし原曲を超えることはないですね。イントロのドラム=「Funny Bunny」のハイライトだと僕は思っていますので。
「巴里の女性マリー」The ピーズ with クハラカズユキ
そのまんまだったので笑った。ピーズは一筋縄ではいかないと思ってましたけど、裏の裏を選んできましたね。ギターが少しだけチープに歪んでいて、歌をはるさんが担当しているってだけで完全に「ピーズ」になってるのはやはり凄い。バンドとして完成してるなあ。
「Vain dog (in rain drop)」noodles
『Smile』という作品において、変化球ながらも地味な存在感を示している名曲を、女性四人組バンド、ヌードルスがカバー。なんというか、ハマってます。あまり弄らずに素直に演奏しているところがいいですね。イントロのドラム、そして印象的なギターリフ。この二つを消しちゃったら「Vain dog」という曲自体消えちゃいますから、それらをちゃんと残して、それぞれヌードルス流にアレンジしているのが大正解だと思う。リフをちょっと簡単バージョンにしてあるのはご愛嬌ってことでひとつ(笑)。
「この世の果てまで」YO-KING
笑った。いや、笑っちゃあいけないのかもしれませんけど、ピロウズの名曲が、あまりに「YO-KINGの曲」になっちゃってるので、笑うしかないでしょう。凄いや。投げやりな感じながらもグルーヴィーなギターソロが聴きどころ。
「カーニバル」佐藤竹善
笑った。いや、笑っちゃあいけないのかもしれませんが、あんな笑い声出されたら誰でも笑うでしょう。ピロウズver.では「アハッハッハッハッハッハッハー」だったのが、竹善さんがやると「ウォッホホヘエー」みたいになっとる。この曲が届いて、初めて聴いたピロウズの面々は笑ったと思いますよ。もちろん、好意的な笑い。真鍋氏とか、爆笑してそう。
「LITTLE BUSTERS」GOING UNDER GROUND
ピロウズゴーイングってのはかなり似ているギターバンドなので、一方が一方をカバーしようとするとかなり個性を出すのが難しくなってくると思うのですが、その点ゴーイングさんたちは頑張った。ちゃんと「ああ、センチメンタルなデブだ」と思える音に仕上がってますね。具体的に言えばコード進行変更とキーボードの存在が決め手なのですが、まあうまくいってます。アウトロの演奏は、「惜しい」としか言えませんね。もっとドラムが巧い人で、ギターがマッドな人であったら、とても面白いことになっていたでしょう。ゴーイングアンダーグラウンドには向いてなかったアレンジとしか言いようがないです。着眼点は非常にいいと思う。
「Our love and peace」SALON MUSIC
笑った。マッド・サイエンティスト的ミュージシャンであるサロンなら何かしらやらかすとは思っていたし、選曲を見てからも期待は高まるばかりだったのですが、やっぱりやりやがった。どんなアレンジか、って言われてもうまくいえないんですけど。音響的? これじゃあまりに広すぎるな。メロディー部分をはじめ、基本的なところはほとんど弄ってないのがまた巧いですねえ。もっとアホみたいな爆音をところどころで挿入しても面白かったかも。好カバー。
「ハイブリッドレインボウ」BUMP OF CHICKEN
ピロウズのバンド史上でも1、2、を争うほど人気の高い「ハイブリッドレインボウ」。それをカバーしたのはバンプオブチキン。最初に言っておくと、このトリビュートで一番好きなのはこのカバーです。静と動のコントラストを最大限に活かしてとんでもない盛り上がりを演出する原曲とは違って、こちらは右肩上がりにじわじわと、しかし着実に頂点へ登っていく感じ。バンプお得意の“演出法”といえるかもしれない。これがかなりハマっています。アコースティックな入りも巧いし、2コーラス目でドラムのフィル・インとともにバンド全体がかぶさってくるあたりもベタながらカッコいい。何より、内側に湧き上がる激情をなるだけ表に出さずに歌い上げるボーカル藤原の歌が素晴らしい。「ハイブリッドレインボウ」という曲は、強いもの・巨大なものに踏み潰された弱者が、地べたに這いつくばりながら、それでも拳をぎゅっと握り締めているときの感情を、ディストーション・ギターや人間の持つ「声」をフル稼働させて具体化させた曲だと個人的に思っているんですが、曲の根底にあるその「弱者の意志」を、バンプオブチキンピロウズとはまた違った手法で表現することに成功してます。見直した、パンプ。
あと未だに「バンプは演奏がちょっと……」と言っている人をときおり見かけますが、そんなに下手じゃないでしょ、もう。少なくともインディーズの頃よりかは升のドラムも直井のベースも格段に上達してる。『FLAME VEIN』や『THE LIVING DEAD』を馬鹿のように聴きまくっていた僕がいうのだからそんなに間違ってはいないと思います。「バンプは下手」っていうイメージ、そろそろ払拭されてもいいような気がするんですけどね。上手ってわけでもないのが厳しいところですな。
「ストレンジカメレオン」Mr.Children
ミスチル色が出すぎてて、少しどうかと思ったのですけど、それなりにいいカバーだと思います。原曲主義者の僕には歌い回しなどが耳についてしまいますね。というか、笑ってしまった。「ア〜イウォナビィヨおジェントルマン」て。最初は「ネタ?」と思いましたが、まあ当然、違います。ピロウズ愛が溢れまくっているカバー。ドラムが一人で熱いですね。さすがJEN。オープン・ハイハット・マニアであり、フィルインマニアである僕にはたまらない。
「Sad Sad Kiddie」 YUTA.TOSHI.CHIHO and JIRO'S SESSION
この「Sad Sad Kiddie」という曲は、もとはオルタナ丸出しのギターロックなんですけど、JIROさんたちはそれをあっさりと、ピアノをフィーチャーしてジャジーに、オシャーレにカバーしてきましたね。カッコイイ。女性声を使った時点で勝ちです。個人的にはこういう「愛を持ちつつぶち壊す」系のカバーをもっと聴きたかった。それをJIROさんがやった、というのはかなり意外でしたけど。『RUNNERS HIGH』というアルバム全体(音だけでなく、歌詞やアートワークセンスも含めて)に漂うある種の「お洒落感」をうまく捉えたJIROさんとあと色々な人に乾杯です。