the pillows『GOOD DREAMS』全曲感想

M-1「xavier」

曲名が公になったときに皆が皆、「ザビエル? さわおの髪の毛大丈夫か?」と不安に思っていたこの曲ですけど、心配は無用だったみたいですね。ドラムのフィルインから人をおちょくるようなギターが続くイントロで僕はがっちり掴まれました。しかし全体的にはコメントしづらい曲。カッコイイことはカッコイイんですけど、どこかずれているような感じもあるし、しかしその「ずれ」は今作共通のものなので、ことさら強調するわけにもいかないし。サビの「ナーナーナナーナー」に見ることのできるさわおのポップ職人ぶりはやっぱり凄いですね。シンイチロウさんのドラムは相変わらず簡潔ながらもツボを押さえている感じで素晴らしい。僕が「ドラム」というと、それはほぼフィルインのことを指すのですけど、シンイチロウさんのように「目立つことはしないけどオカズを渋く決める」系のドラマーが僕の好みのようです。リンゴ・スター系。

M-2 「WALKIN' ON THE SPIRAL」

今作の私的ベスト・トラック。このギターリフを生み出した時点でピロウズの勝ちです。昨日付けの感想にも書きましたけれど、吉田仁によるミックスも完璧(パンの微妙ないじりようが素晴らしい)。褒めるべきところがたくさんありすぎて困るくらいですよ。ギターのフレーズは、リフ、ソロともども、かなり「螺旋」を意識しているように思えます。そしてちゃんといいフレーズが連発されているから凄い。ソロで使われている微妙なかかり具合のエフェクターフェイザーか、ワウか、ちょっとわからないんですけど)も絶妙の効果を出してますね。これぞギターロック。「ウォーキオンザスパイラー!」って歌う前の、ワン・ツー・スリー・フォー的なバンドアンサンブルがとっても僕のツボです。ついつい身体が揺れてしまう。ベースは基本的にルート弾きで、「ちょっとひねり足りないけど、これはこれで」と思いました。ソロのところではちゃんと一捻り入れてますしね。詩作面でも特に文句はありません。ポール・ウェラーがあれほど悩みに悩んだ「悪意という名の街(TOWN CALLED MALICE)」を、「見なくてもいい」と一蹴できる今の山中さわおはかなり吹っ切れてる。オッサンの逆ギレかもしれませんけどね(笑)。

M-3 「その未来は今」

今さら取り立てて言うことはないですねえ。曲自体の感想はシングル発売時に書きなぐってしまいましたし。となると気になるのはアルバムとしての立ち位置。やっぱり僕としては「ひとつだけ浮いちゃってるのでアルバムとしては必要ない曲」という結論に達します。なぜ浮いてるのかというと、他の曲が「前を見ている」のに対し、これは「後ろを振り返っちゃってる」のですよ。別に歌詞にそういうフレーズがあるから安直に決め付けているわけじゃないですよ。純粋に、楽曲的に浮いてる。どこが、と言われるとうまく説明できないんですけど、「その未来は今」はいわゆるところの「直球ピロウズサウンド」で、一方『GOOD DREAMS』収録のほかの曲はその「ピロウズサウンド」から逸脱し始めてると個人的に思うので、そういう意味で「浮いてる」と書いたわけです。第二期から第三期への移り変わりほど顕著ではないけれど、そういう雰囲気を僕は今感じています。

M-4 「天使みたいにキミは立ってた」

山中さわお得意の片思いソング。ピロウズでは珍しい8分の6拍子による楽曲です。同じ拍子の「この世の果てまで」(『SMILE』収録)という名曲とどうしても比べてしまいますね。「この世の果てまで」で印象的だったドラムのフィルインは、ちょっとイメージを変えてこの曲に受け継がれているような気がします。まあ同じような叩き方になってしまうのは仕方のないところなんでしょうけど。ギターのオクターブ奏法も「この世の果てまで」との類似点と指摘できなくもないんですが、まあ真鍋さんはかなりオクターブ奏法好きで結構使ってますからね、そこまで突っ込んでも意味ないですね。しかしラストの「イエー」はどうなのか(笑)。僕はいらないと思いました。あと控えめに鳴ってるプログラミング音(シュイーーーーンって感じの音)もいらないなあ。やばい、曲別に感想を書くと文句ばかりになってる(笑)。歌詞はさわお節丸出しで生暖かく笑えるのでグッドです。「特別な予感 / 勝手に一人でシビレている」、この歌詞シビレる。さわお非モテの気持ちをとても理解してくれてますよ。

M-5 「オレンジ・フィルム・ガーデン」

ギターが右左のチャンネルにはっきりと分かれてて、そういうミックスは結構珍しいなあと思いました。最近のピロウズはギターをごちゃまぜにするのが好きだから。曲としてはそんなに特筆することもないです。アルバムの流れの中で力を発する曲ですね。さわおギター(左側)の音の質感が好きだなあ。「Beautiful Morning With You」チックな、乾きつつも控えめに分離するリズムギター。僕も宅録するときにこういう音を作ろうとするのですけど、なかなか難しい。誰かこの音の作り方教えてください。あと歌詞はちょっと気に食わないところが多いですね。「リアル」て。別の言葉なかったのかい。まあ最近のさわおの歌詞には大して期待してないし、歌詞で音楽を評価してしまいがちな風潮も好きじゃないので別にいいんですけど。これもギターを楽しむ曲ですね。ベースは結構面白いことやってるのに目立たないな。鈴木淳哀れ。

M-6 「フロンティアーズ

この曲はもろヌードルスさわおのギターはYOKOさんが弾いてますよって言われても納得してしまうくらいだし、真鍋氏のギターとか、先日ヌードルスを脱退したJUNKOさんに敬意を表してるのかってくらいフレーズがヌードルスしてる。シンイチロウさんのドラミングもAYUMIさんによう似てる。フロア・タムを使って刻むエイト・ビートとか、「タカタ、タカタ、タカタカタカタカ」っていうフィルインとか。意識してるのかなあ。考えすぎでしょうか。まあヌードルス云々はひとまず置いておくとして、曲の感想を。「フロンティアーズ」というタイトルからして「俺たち開拓者!」みたいなアゲアゲムードなのかと思いきや、思いっ切り地味です。しかし地味ながら、とてもカッコイイ。自分がギターを弾くもので、どうしても耳がギターへ向かってしまうんですが、ギターソロ中のバッキングギターが痺れるほど渋くキマっていてカッコイイです。間奏中のバンド・サウンドがカッコよすぎる。こういうところに「進化する若さ」を感じますねえ。これならマイノリティーも頷くしかないと思います。

M-7 「ローファイボーイ、ファイターガール」

これも地味ですね。地味、というか盛り上がらない。じぇいびさん(id:kitschsyrup:20041102)も書いていらっしゃいますが、最近のピロウズの曲構成はAメロ→サビへと直接繋がってしまうものが多く、どうしても盛り上がりに欠けてしまうんですよね。この曲に関しては、厳密にいえばBメロがあるんですけど、これはないも同然、というかむしろ「唐突感」が増しちゃってるような気がします。うーむ。演奏面での見るところも特にないし、アルバムの中では一番埋もれちゃってる曲ですね。それだけに、「one life」という、ピロウズファンにとって特別な言葉が使われていることに若干のやりきれなさを感じます。山中さわおは「ローファイボーイ、ファイターガール」を「バスターズ」に代わるピロウズファンの愛称にしたいそうですが、ちょっと無理があるような気がしますよ。

M-8 「New Year's Eve」

晦日にライブで演奏することが決定してる曲ですね。しかし地味な曲が続くなあ(笑)。とはいっても、「ローファイボーイ〜」と違って、こちらは味のある地味さですけどね。Bメロ、「長い夢を見てる」のメロディーラインが最近のピロウズっぽいですね。「る」のヒネクレ具合が。ゆったりと聴ける、小粒ながらもいい曲です。まさにアルバム的な感じ。ギターソロ前半と後半があまりの違うのですが、これはやっぱり前半=さわおで、後半=真鍋氏なのかな。さわおギターもいい味出してますよ。ライブで確認せねば。あとどうでもいい話をひとつ。僕は基本的に歌詞カードをあまり読まないので、最初は耳だけで歌詞を聞き取ってるのですけど、「まだもう少し待ってほしい」が「バラモス少し待ってほしい」に聞こえてかなりびっくりした。ほんとにどうでもいいことだ。

M-9 「BAD DREAMS」

インスト。ようやくベースが目立ってる曲がきましたよ。おめでとう鈴木淳。でもフレーズ的に目立ってるだけで、音としては結構埋もれちゃってる。やっぱり哀れ鈴木淳。今作ではミックスがベースに冷たいですね。僕のヘッドフォンが低音に弱いせいもあるんでしょうが、それを差し引いてもベースの音量がちょっと弱めだと思う。ギター中心の音作りってことなんでしょうか。この曲でもやっぱり一番耳に残るのはギターのユニゾンだし。掛け合いなんかもあったりして、ライブでは山中さわおと真鍋氏が楽しいアクションを見せてくれることでしょう。しかしあんまり「バッドドリーム」って言うほどシリアスな感じはしないな。夜の街でヤンキーが「ヒャッハー」とか言いながらバイク乗り回してるイメージ。曲中に挿入される様々なSEもにぎやかでいいですね。

M-10 「GOOD DREAMS」

「忘れられた僕の夢 / 僕以外の誰が見れる」。これはいい歌詞。グッとくる。歌詞で曲を語ることはわりと嫌いなんですけど、この曲に関しては、久々にさわおの歌詞で感じるものがありました。肝心の曲内容はというと、「惜しい」、この一言に尽きます。や、いい曲ですよ? タイトルナンバーですし、間違いなく今作のハイライトです。しかし前述の「曲展開の唐突さ」が気になってしまう。イントロで面白い入り方してるし、サビはいいメロディーなんだし、もっともっと大事に盛り上げていってほしかった。この曲に関しては長くなっちゃっても構わないと思いますし。サビのボーカルが力みすぎ、というのはまあ、山中さわおに関しては個性なので特に何も言いません。Cメロ〜ギターソロへの展開はカッコイイですね。肝心のギターソロが少しあっさりしすぎかなあとは思いましたけど。文句ばっかり書いてますが、名曲だからこそ僕は文句を言うのですよ。このねじれた愛情をわかってほしい。

M-11 「Rosy Head」

ピロウズのアルバムによく見られる「小品での締め」。今までのピロウズだったら、サビあたりでエフェクタードン踏みにして歪ませまくるパターンの曲ですが、これは巧い感じに料理してます。遊び心が溢れていますね。「1,2!」なんて、これは笑うところですよね? 僕はニンマリしちゃいましたよ。力が抜けててとても良いです。こういうのをベテランの余裕っていうべきでしょう。「ペンギンの恋は無表情 / つまんない」――さわおのセンスはまだ衰えていないなあ。ところどころに光るものがあります。あと、これは「Rosy Head」に限ったことではないんですが、真鍋氏のギタープレイって結構変化してきてますよねえ。音色的にというか、フレーズ的に。いいことだ。