賀正

年明けは接客中に訪れました。カップルが地元の神社の場所を訊いてきたので思いっきり嘘を教えてあげようかしらと思ったのですが心優しい僕は「や、ちょっと正確な道はわからないですね」と親切に受け答えしました。「マジで〜? 使えねーな」と言われました。アイスバーンで滑って後頭部を強打した後、外傷とは関係ない疾患、そう例えば腹痛でとか、そういう感じで死にやがれ、と思いました。立ち読みをしてからビールとから揚げと風俗情報本を買って帰っていった独身男性らしきお客様には「頑張って生き抜こうぜ、この素晴らしい世界を」と声をかけそうになりました。帰り道で、例の煙草屋のお婆様が、元旦でしかもこの積雪状態だというのに通常どおり営業するのか、ピンボール・ゲームの筐体を表に出そうと四苦八苦してました(子供たちのためにゲーム機が置いてあるのです。アナログなピンボールとか、メタル・スラッグ2とか)。危ないな、大丈夫かなあと思って見ていたのですが、「ハウんフッ!」という掛け声とともに筐体は無事引っ張り出されたようでした。今年も彼女は元気のようです。そして直後、僕は凍った路面に足を滑らせて自転車ごと横転しかけまして、少しだけ世界が中森明菜的にスローモーションになったのですが、こんなところで頭を打って気を失ったら婆様に人工呼吸を喰らってしまう、そんな姫初めは嫌だ、と考え、「ハウんフッ!」という掛け声とともに何とか踏ん張りました。「お兄さん、あけましておめでとう」と婆様が声をかけてきました。僕は若干の股裂き状態を保ったまま「おめでとうございます」と挨拶を返しました。東の空に太陽が顔を出そうとしていました。股関節の痛みに耐えつつ部屋に着き、今こうして文章を書いております。年初めの音楽はモーサム・トーンベンダーの「BIG-S」でした。新年早々、部屋の中で独りヘッドバンキングかまし、そのあまりの激しさにヘッドホンが外れてずり落ち、僕の性器のあたりに落ちました。「ハウン」と僕は声をあげました。世界中の皆さん、あけましておめでとうございます。