the pillows「Ninny」考

「Ninny」をやったらしいじゃないですか。この僕が睡眠グスクールでせっせとレム睡眠自由形に励んでいる間に、断りもなく、「Ninny」をやったらしいじゃないですか。どういうことですか。返答次第では脱ぎますよ? 返答に関係なく脱ぎますが、とにかく脱ぎますよ? 脱がれたくなければ真相を説明しなさい。嘘偽りなく真相を説明したとしても脱ぎますが、とにかく説明しなさい。――と、メタルスライムも驚き戸惑うくらいの突然さでおはようございます。これじゃわけがわかりませんね。ええ、僕もわけがわかりません。驚き戸惑ったのはむしろ僕のほうです。昨日、横浜で行われたザ・ピロウズのライブで「Ninny」という曲が演奏されたと聞き、いてもたってもいられず、とりあえず脱いでみたのです。寒かったので即座に着衣しました。今は幾分落ち着いています。
今さら断る必要もないかと思いますが、僕はピロウズファンです。そして「Pillows&Prayers」のURLを見てもらえればおわかりのように、僕はサイトスペースのアカウントに曲名を流用してしまうほど、ザ・ピロウズの「Ninny」という曲が大好きです。おやつ好き、お昼ね好き、「Ninnyは?」もっと好き、なわけです。しかしまだライブでは聴いたことがありません。山中さわおが「Ninny」を歌っている様子を見たことがありません。しかしそれはしょうがないことだろう、と思っていました。「Ninny」はもともと「インスタントミュージック」というシングルのカップリングで、得てしてカップリング曲というものはライブではそうそう演奏されないものだし、ノリノリな曲調ならともかく、「Ninny」といったらバラード的なゆったりめの曲。ライブで演奏されないのが当然、と諦めかけていました。何年か前、神戸チキンジョージ2daysかなんかで演奏されたらしいですけど、関東在住の僕にとって神戸は遠すぎてあまり現実味がなく、「あー、やったんだ」としか思わなかったのです。しかし今回は違う。横浜という、行こうと思えばすぐに行けた距離にある地で、「Ninny」が演奏されてしまった。そして僕はそのとき眠っていた。後悔ですよ。ものっそ後悔ですよ。ナンバーワンになれなくてもいいもともと特別な後悔ですよ(錯乱)。


「Ninny」という曲の素晴らしさを語るうえでまず重要なのが、ピロウズのソングライター・山中さわお人間性です。彼は報われない人間でした。有り余る才能を持ちながら、そしてその才能を十分に発揮していながら、人々に受け入れてもらえなかった。そういう状況に陥ったとき、彼は「チクショーコノヤロー!」といった怒りや、「なんだよみんなしてボクを」といったイジケ精神や、「こっちを向いて」といった切望や、他様々な感情を抱くわけです。そしてそれを音楽に昇華させていくわけです。音楽、特にロックというのは作り手の感情がダイレクトにあらわれてくる表現分野ですから、彼の作った曲は「力」を持ちます。大衆性があるかないかは置いておくとして、聴き手に響く「何か」があるわけですね。多くのロックバンドがその「何か」を生み出せずに消えていく中で、山中さわおはそれを掴んだ。
『Please Mr.Lostman』というアルバムを契機に、だんだんと、ゆっくりではあるものの、彼を取り囲む状況というのが変わってきます。山中さわおが感情を開けっぴろげにすることで、今まではそっぽを向いていた人たちが、だんだん振り向いてくれるようになった。振り向くだけでなく、自分らが進んでいく方角へ、一緒に歩いてきてくれるようにさえなった。彼は「あ、これでいいのか、こういうことだったのか」と思ったでしょう。その後『LITTLE BUSTERS』といういい意味でチョーシに乗った作品をリリースし、多くの人々を振り向かせることに成功、ここら辺で山中さわおの中に新しい感情が生まれてきます。
それは「余裕」。
まだまだセールス的に成功したとまではいえないけれども、確実に前よりは良くなってきている。まだまだガンガンいくつもりだけれども、今は今で結構居心地がいい。しかし当然、「上」を目指すのをやめたわけではない。――山中さわお特有の「少年的青臭さ」と、新たに生まれた「大人の余裕」、二つの感情が絶妙にブレンドされて、今までにないタイプの楽曲ができあがります。それが「Ninny」である、と僕は考えているのです。片思いの相手に贈るラブソングという形を選択したのは、後付けな感想ながら、「巧い」というほかない。「Ninny 本当さ / キミが誰のものでも / たぶん不安じゃない / あの気持ちは色褪せない」、この歌詞には前述の「余裕」が見え隠れしていますね。控えめでありつつもどっしりと落ち着いたディストーション・ギターサウンドには「少年性」が感じられる。メロディーラインにはその両方が。素晴らしい曲です。他にもいろいろと「チェキラ」するべき点はあるんですが、本稿の筋と外れてしまうので割愛させていただきます。とにかく、山中的片思いソング(その対象は女性に限られるわけじゃありません)の中では、ピロウズ全キャリアで1、2を争う名曲だといえるでしょう。


「長々と何を書きまくっとるのか」と、辛抱強くここまで読んだ人も、だんだん首を傾げてくるころでしょう。つまりですね、これほど長々とウンチクをたれてしまうほど大好きな「Ninny」を、ライブで聴けなかったことが悔しくて悔しくて、泣き濡れてコンチクショウ! なわけです。あー、行けばよかった。