冬色紙幣模様

1月の26日・27日は、個人的に買いたいもの――というか買わざるを得ないものが色々と発売される日でして、ほぼ万年キンケード(「金欠」の最上級)であるところの僕はなかなか財布の中身のやりくりに必死です。だがしかし、財布の大家さんとしての才能がないのか、必死にやっているのにうまくいきません。一ヶ月に一回だけ入居する複数の福沢諭吉さんは相次いであっという間に引越し、夏目漱石さんはふらりと遊びに来ては風のように去り、樋口一葉さんに至っては即座に夏目へ細胞分裂。何故、何故ここまで紙幣という人たちは僕を嫌うのか。少しくらい僕と一緒にいてくれたっていいじゃないか。そう思うのですが、いつも給料日前のこの時期になると、財布の中には夏目先生が一人くらいしかいらっしゃりません。彼は真顔で僕を見つめてきて、なんだか糾弾されているような気になります。「財布は空である。借金はまだない。どこで使ったのかとんと見当もつかぬ。」などと嘲笑されているような錯覚。ちょっとムカついたので先ほど夏目先生を自動販売機へ吸い込ませてみました。吸い込まれる間際も彼は僕を真顔で見ていました。「いい気味だ」と思いました。でも少しして、寂しくなりました。彼は僕に残された最後の夏目漱石だったのです。首を振りました。あと一日で給料日じゃないか。すぐ会える。すぐ会えるさ。僕は思いました。折り目がついていたせいか知りませんが彼は本当にすぐ戻ってきました。「キィ!」と僕は言いました。「キィ!」と言いながら札を伸ばし再度挿入。夏目凱旋。三回トライし三回失敗、一回通行人に笑われました。夏目先生は今も僕の財布の中で悠々とひげをいじっていらっしゃいます。腹の虫は鳴きやむ様子がありません。