TOMOVSKY『39』


39 “悲しみの分だけ強くなれるよなんて全部ウソなんだ”


僕はこのアルバムを買ってしまったことを後悔している。なんだってこんなん聴いちまったんだ、と。こんな素晴らしいアルバムを聴いてしまったら、チケット絶賛売り切れ中のピロウズvsトモフスキーの対バンライブに行きたくて行きたくてしょうがなくなってしまうではないか。僕は一縷の望みにかけてチケットぴあに電話してみた。もしかしたら、キャンセル分が残っているかもしれない。「ソノコウエンハ、ヨテイマイスウヲシュウリョウシテイマス」と、脳にトランジスタラジオを仕込まれた郵便局員のおばちゃんみたいな声が僕の期待を無残に打ち砕いた。僕は携帯電話を打ち砕こうとした。しかし携帯電話に罪はない。思いとどまって深呼吸し、今度脳にトランジスタラジオを仕込まれた郵便局員のおばちゃんを見かけたら有無を言わさず打ち砕こうと決意した。
そんな感じで、8曲入りの「ミニ・アルバム」と言えなくもない控えめなボリュームの『39』ですが、んなこと関係なくこれは名盤でありますよ。トモフスキーさんをちゃんと聴いてなかったことを後悔してしまったくらい。今すぐ教会へ入って牧師さんに懺悔したいくらい。そもそもなぜこのアルバムを買おうと思ったのかというと、賢明なピロウズヲタの皆様はお分かりになるかもしれませんが、13日の渋谷AXでSEとしてトモフスキーがかかっていたからなのですよね。なんとも僕らしい。喫煙所で煙草を吸いながら開演を待つのが常なんですが、フロアから漏れてくるSEが妙にカッコイイなあと思い、知人に「これ何?」と訊いたところトモフスキーだ、と。中期ビートルズをスロー再生しているような、いい意味で怠惰なグルーヴに、僕は一瞬で虜にされてしまいました。カッコイイじゃないか。M-7「果てるんだ」という曲がそれだったのですが、他にもバラエティに富んだ名曲がいっぱい。基本的にトローンとしています。その「パンツのゴムの緩み具合」が絶妙です。気持ちいい。
歌詞にも投げやりな深みがあっていいですね。「成長につれて縮む / そんな脳はもう見捨てるんだ」「脳よりか骨だろ? そう、骨だ!」(M-1「骨」)、「小学生までだった / マトモな昼間を / また作るんだ」(M-7「果てるんだ」)などなど、少し立ち止まって考えさせられるフレーズが満載。中でも他人との距離感を諦め気味に歌うM-5「疎遠」は、かなりの名曲と言ってよいのではないでしょうか。「ソエーン」なんて言葉をコーラスに使う人なんて初めて見ましたよ。とてもメロディアス。不器用な人を優しく許すかのように響くアコースティックギターの音色も美しい。後半の盛り上がりも情感たっぷり。やはり名曲。
ジャケットはトモフスキーさん自ら描いたアクリル画(?)らしいです。ピロウズ『GOOD DREAMS』のジャケもこの人が描いたんですけど、どちらも素晴らしいセンス。レコードサイズにして壁に飾りたい。