福山芳樹『FUKUYAMA FIRE!!』


FUKUYAMA FIRE !!! ~A Tribute To Nekki Basara~


マクロス7』というアニメ番組に登場するFIRE BOMBERという作中バンドのボーカル熱気バサラというキャラクターの「歌」を担当していた福山芳樹という人による、いってみりゃ“セルフ・カバー”アルバム(「という」が多いですね。声に出して読みたくない日本語です)。FIRE BOMBERの楽曲には素晴らしいものが多く、結構話題にもなったので、十何年前にオタクだった人ならば聴いたことくらいはあるのではないのでしょうか。暑苦しく直線的で赤面必至な、それゆえ心に響く歌詞と、福山芳樹の声で伸びやかに奏でられるメロディー。一昔前の音楽ではありますけれど、なかなか色褪せるものではありません。とは言っても、それなりに音楽を聴いてきた今の自分が聴くと、ちょっと「厳しい」のも確かです。演出過剰の音色なんかもそうですが、なにより、打ち込み全開でグルーヴ感ゼロのドラムが一番厳しい。中学生の頃はそんなの気にならなかったのに。「こんなバスドラ有り得るかバカ」とか思っちゃう。「フィルインがゴミ…」とか思っちゃう。これが青春との決別って奴なのか、悲しいな、じゃあな、あの頃の俺……ザ・グッバイ……
と、トレンチコートを着込みながらお悩みのアナタ、つべこべ言わずに『FUKUYAMA FIRE!!』を聴きましょう。なんだろう、この通販的な胡散臭さ溢れる流れは。まあ気にしない。とにもかくにも福山芳樹バンドが完全生演奏でお送りするFIRE BOMBERの名曲たち。特にドラムスは福山芳樹のバンド時代からの盟友、麻生祥一郎さん(間違いを修正しました。“祥太郎”とか書いてた。誰だそれ)。良くないはずがありません。そう、良くないはずはない、その確信をもって僕はこのアルバムを聴いたのです。そして小一時間後、口を半開きにしてウットリんぐしている自分がいました。やっぱいいわア。福山芳樹いいわア。
もちろん、十年ほどの歳月が福山さんから奪っていってしまったものは少なくはありません。あの、伸びのある、艶やかで少年性溢れる美しい声に、かげりが見えることは否定できない。実際いくつかの曲でキーが下げられているようですしね。若干の「がなり声」になってしまっている部分もあります。しかしそれでも、根底に流れる「俺の歌を聴け!」精神はバリバリ健在であります。響いてきましたよ。歌の力。そりゃね、懐かしさやら感傷やら、そういった僕の恣意的な感情が、このアルバムを一割増しで良く聴こえさせているっていう側面もあるでしょう。それでも、音楽を聴いて鳥肌を立てたのは久しぶりでした。充分ですよ。いい音楽がある。それだけで充分。タワーレコードさんがいつも言ってます。NO MUSIC,NO LIFE。ほんとそうですね。


さあ、誰も求めてない全曲感想いきますよ。

「HOLY LONELY NIGHT」

FIRE BOMBERバージョンではドラムに人間味が全く感じられず(打ち込みなんだから当たり前か)、せっかくのかっこいいギターリフを活かしきれてませんでしたが、当然ながらこっちのほうはちゃんとしたバンド・サウンドになってます。かっけえなあ。さっきは「声に衰えがある」的なことを書いてしまいましたけれど、イントロ部分のシャウトは力強くて最高です。ギターソロはディープ・パープル丸出しで、うん、かっけえ。なんでもかっけえ(笑)。オルガンがあるとやっぱり盛り上がりますね。ラストの畳みかけ部分も良し。生バンドの魅力を前面に出した『FUKUYAMA FIRE!!!』のトップとしては、これ以上のものは考えられないのではないでしょうか。

「NEW FRONTIER」

私的ベスト・トラック。正直、FIRE BOMBERバージョンのほうは大して好きではありませんでした。OVAの『マクロスダイナマイト7』で頻繁に使われていたのですけれど、「こんなん使うなよ」と思ったくらい。しかし、福山バージョンのイントロを聴いて全てが吹っ飛んだ。なんと美しいコーラスだ。HUMMING BIRD時代からコーラスにはこだわりを持ってる人ではありましたが、ほんと綺麗。ちょっとしたアレンジでガラリと変わるものなんですねえ。瞬く間にお気に入りの曲になりました。ただ、歌詞がちょっとアレなのが気になるところ。青臭い歌詞が魅力のFIRE BOMBERとはいっても、これは単純に稚拙。内容が薄いうえに、日本語がおかしい。曲自体は良いだけに、もったいない。

「突撃ラブハート」

ここまで読んでる人にとってはもはや説明不要でありましょう。FIRE BOMBERの名刺代わりと言ってもよい、バカで熱い名曲です。「俺の歌を聴けば簡単なことさ / 二つのハートをクロスさせるなんて」、なんとバカで熱い歌詞であろうか。バカで熱い福山芳樹が唄うからこそ、このバカで熱い曲に説得力が生まれる。「歌の力」を無条件で感じられる曲です。それだけに、キーが下げられているのは残念無念というほかありません。仕方ないことなんでしょうけれども。ま、それはそれとして、イントロのドラムがかっこいいですね。

「DYNAMITE EXPLOSION」

ライブ録音。アレンジはFIRE BOMBERバージョンではなく、HUMMING BIRDのやつ。普通にかっこいい。ま、特筆すべきことはあんまりないです。「オーイエー! オーイエー! よろしくぅ!」っていうシャウトはどうなんだろうとは思いますけれど(笑)。しかし、改めて見るとすげえタイトルだなこれ。超直球。

「REMEMBER 16」

数あるFIRE BOMBERソングの中でも、1、2を争うくらい好きな曲でして、かなり期待していたのですが、福山芳樹は見事応えてくれました。素晴らしい。シンプルなアコースティック・アレンジですが、この曲には弾き語りがとても合いますね。『アコースティック・ファイアー!』という、FIRE BOMBERの楽曲をアコースティックにアレンジする企画盤が昔リリースされてまして、そこにも「REMEMBER 16」は収録されておりましたが、なぜかハワイア〜ンなポワワンとした微妙アレンジで、「こうじゃないだろ!」と思ったものです。僕の理想的な「REMEMBER 16」がようやく届いたってわけですよ。嬉しい。アコギのフレーズがこれまた渋くて聴かせますねえ。オルガンによるちょっとしたスパイスもマル。

「夢の道」

これは僕にとって『マクロス7』劇中曲というよりもHUMMING BIRDの曲なので、「この曲を福山さんがトリビュートぉ!?」とか、そういう驚きは全くありませんでした。しかし、ライブバージョンが聴けるのは素直に嬉しい。いい曲だなあ。

「SUBMARINE STREET」

私的ベスト・トラック2。前述の「REMEMBER 16」と並ぶ、お気に入りのFIRE BOMBERソングです。それどころか僕が今までに聴いた曲を全部ひっくるめてもかなり上位にくるほど好きな曲。メロディー、イントロのギターフレーズ、歌詞、ソロに入る前の展開、もう全てが僕のツボであります。もともとのアレンジも相当好きでしたけど、福山バンドによる新「SUBMARINE STREET」はそれを凌駕するデキ。何もかもがいい。鳥肌が立っちゃいましたよ。ただ一つ、福山芳樹の声が少しだけかすれてしまっている点だけが残念。本当に残念。今の声もじゅうぶん魅力的なのですけれど、ね。

「PLANET DANCE」

「突撃ラブハート」とともにFIRE BOMBERの代名詞的存在になっている曲です。とにかくテンションで押し切るアレンジになってるんだろうなあ、と思ってたらやっぱりそうでした。これに関しては無理に捻らないほうがいい。「NO MORE WAISTIN' LOVE / 愛を無駄にするな / お前だけを誰かが見つめてるはず」――いい歌詞じゃないか。とても。

「LIGHT THE LIGHT」

スケールのでかいバラード。これも普通に名曲でして(名曲以外入ってないアルバムですから)、普通に良い。「まるでメリーゴーラウンド」「続くロング・アンド・ワインディング・ロード」部分のハモリがなくなってしまっているのは少し残念ではありますが(というかどうせならミレーヌ役のチエ・カジウラも連れてきちゃえばよかったのに)、他のところで綺麗なコーラスが入ってるのでいいや。この曲に関しては、福山ボイスの高音の伸びはまだまだ健在ですね。少し怪しいところもありますけれど。

「名もなき果ての街で」

「夢の道」と同じように、FIRE BOMBERというよりはHUMMING BIRDの曲。ハミングバージョンがロック・バラードとしてあまりにも完成してしまっているので、福山氏がこれをどう料理してくるのか楽しみでした。ピアノオンリーの弾き語りですね。途中でディストーション・ギターとドラムとベースがガッとかぶさってくる原曲に比べると、当然ダイナミックさは皆無なわけなのですが、これはこれで、かなり良い。つかもう全部「良い」としか言ってないような気がしますが(笑)。綺麗なメロディーを持っている曲ってのは、あんまアレンジとか関係ないんでしょうね。

「HEART & SOUL」

劇場版マクロス7のテーマ曲。ミレーヌ姉との掛け合いボーカルがこの曲の魅力だったのですが、今回掛け合いは無し。となると、収録する意味あったのかしら? レア曲だから、ってことだったのでしょうか。曲自体は良いんですけどね、まあ当然ながら。サウンドは分厚いものの、ちょっと迫力が足りないような気がしました。

「STARLIGHT DREAM」

これまた僕にとってはFIRE BOMBERというよりHUMMING BIRDの曲なので、『FUKUYAMA FIRE!!!』へ収録されることに対して驚きはありませんでした。アレンジもハミング時代と全く変わりありませんし。まあ「夢の道」と同じで、ライブバージョンが聴けるのは嬉しいことです。言うまでもないことですが名曲。

ANGEL VOICE

福山芳樹の美声がこれでもかというくらい堪能できる、菅野よう子のペンによる名バラード。アコギ一本とボーカルだけ、というシンプルな編成。とても良い。良いけど、FIRE BOMBERのベストアルバムとかに収録されてるバージョンのほうが単純に完成度が高いし、これまた「収録する意味あるのかしら」とかちょっと思ってしまった。人気はあるんでしょうけど。いや、このアコギ版も素晴らしいんですよ? ファルセットが綺麗。

「LIKE A FIRE」

これは新曲です。新曲っつったってマクロス7が絡んでいるわけでもないし、普通に福山バンドの新曲みたいな感じになるんだろうなと思い、そんなに期待はしてませんでした。期待しなかったのが逆に功を奏したのか、結構良かったですよ。しかし、思い入れのあるFIRE BOMBERの曲たちのほうに耳がいってしまうなあ。福山恭子さんの詩はとても好きなのですが、「熱気バサラ的」ではないような気がしますし。「STARLIGHT DREAM」も福山恭子さん作詞なので、やはり熱気要素は薄い。K.INOJO作詞のやつが一番しっくり来ます。



ここまで読んでくださったあなた、とてもお疲れ様でした。たぶんあなたは福山芳樹のファンでいらっしゃることでしょう。僕もです。トモダチ、トモダチ。