台風はシャイなやつ

首都圏に向かって突進してくる台風って、規模がでかいモノほど、必ずといっていいくらい上陸したかしないかの微妙なあたりで進路を変えてしまっているような気がする。台風で深刻な被害を受けた地域の皆さんには悪いのだけど、台風が接近すると意味もなくワクワクしてしまう機能を持つ小学生気質の僕にとって、これは少し残念なことだ。しかしなぜ960ヘクトパスカル級の台風さんは首都圏を嫌うのだろう? 不思議だ。台風さんが大酒飲みの自営業者でで店の売り上げを使い込んでまで飲み屋を梯子しちゃって伊豆半島にいる奥さんに「この甲斐性なしが! なんばしよっと!」とか言われながら竹箒でドツカレるのが怖くてついつい進路を変えてしまうのだったら納得がいくのだけれど、伊豆は九州じゃないから奥さんが「なんばしよっと」とか言わないしなあ。辻褄が合わない。そもそも台風は九州にはためらいなく上陸しちゃうんだよね。「なんばしよっと!」って怒られて、ちゃんと勢力を弱める台風夫。少しだけ萌える。でも問題は関東なんだ。なぜ避けるんだろうなあ。むしろ台風は関東と恋仲だったりするのだろうか。「お前のことを愛してる。愛してるんだ。でも俺は俺の夢を諦めることができない。わかってくれ。夢を叶えることができたらきっとお前を迎えにいくから。待っててほしい」とかなんとかでっかいこと言ってみたはいいものの、何年経っても一向に夢は現実にならず、日々の生活すらままならない台風。故郷に置いてきた関東子は元気でやってるだろうか。顔が見たい。優しいアイツのことだ、ダメな俺のことも笑って受けいれてくれるだろう。でも、もしも、もしもだ、もしもアイツが新しい恋人を見つけて幸せに暮らしてたらどうする。何年もほったらかしにしたんだ、俺に文句が言えるはずもない。どんな顔をしてアイツに会えばいい? 友達を装うのか? 「ウィ〜ッス俺! 俺台風! 久しぶりンコ!」なんて陽気に挨拶するのか? ――できない。俺はまだ関東子のことを愛してるんだ。アイツが高気圧と仲良くしてるのを見るだけで、きっと発狂しちまう。でも会いたい。顔を見るだけでいいから会いたい。ああ、もう少しでアイツのいる街に着く。俺は、ああ、俺は――


なんて葛藤の末、台風が関東を避けて太平洋上に抜けたと考えれば、今首都圏を覆っているこの抜けるように爽やかな青空にも、何か深い意味があるような気がしてくるから不思議です。天気図を見てるだけなのに妄想をし始める僕のドタマもかなり不思議です。いつになるかわからないけど、大型の台風が関東に上陸したら、たぶん僕は泣く。だって彼は絶対に関東に留まることはないんですもの。そのまま通り過ぎちゃうんですよ? こんなに切ない話があるか。ああ、台風よ。君の恋は決して報われることがない。時は人も天気も変えるんだ。