the pillows 『MY FOOT』全曲感想の巻

初めて聴いてから一日しか経っていないのに全曲感想なんて早漏もいい加減にしとけよっていう趣きがございますけれど、僕自身が後になって「ああ、こんなこと思ってたのかあ」と懐かしむためにも書いておきます。というか、書きたくてしょうがない。

#1 「MY FOOT」

タイトル曲がトップにくるのは『HAPPY BIVOUAC』以来か。曲調こそ違えど、両者とも「決意表明」的な意味合いの曲であるところが共通してますね。サウンド面でも、「今」のピロウズを最も端的に感じ取ることのできる名曲です。やはりパッと耳につくのがツインギターでしょう。これまで山中さわおは、楽器演奏で前面に出てくることはほとんどありませんでした。基本的にずっとコードを鳴らすだけのリズムギター。たまにファンサービス的にソロを担当したりしてましたが、真鍋氏とのアンサンブルをここまで意識したことはなかったのではないか。もちろん前作や先行シングルなどで、その兆候を聴き取ることはできましたけれど、ニューアルバムのタイトル曲でハッキリと形にしてあるってのは、とてもわかりやすくてよろしい。僕を含む一部のピロウズファンは「さわおのギター下手wwwww」つって馬鹿にしつつ愛していましたが、実はそんなに下手じゃないのです。第二期は結構複雑なことやってますし、DVD『BUSTERS ON THE PLANET』の特典に収録された「ハイブリッドレインボウ講座」でも、「俺ぴーちゃんのギター弾けないんだよなあ(笑)」とさわおは言いつつも、チラっと弾いてみたりしてました。あまりギター面で自分を出してこなかったのは、まあもちろんそれほど上手でもないってのもありますが(笑)、真鍋氏に気を使っていたっていう部分もあるのではないでしょうか。気を使うってのも変か。絶対の信頼を置いていたからこそ、さわおは一歩引いていた。しかし山中さわおというギタリストは昔も今もバンドの一員であるわけで、バンドを続けていくうち、ギタリスト二人が協奏するようになっていくのは、まあ自然な流れであるのかもしれません。とてもいい感じです。バンドとして。
細かいアレンジを見ても、いろんなところがバッチリ決まってますねこの曲は。ハイハットを裏に入れたリズム・パターンも、「歩いている」「進んでいる」感がとても出ています。というか佐藤シンイチロウさんが最高です。この人、手数が多いドラマーじゃありませんから、あんまり目立たないのですが、本当に凄いドラマーです。引き際を心得てます。というか、「バンド」を知り尽くしている感じですね。どう叩けば曲が一番良くなるか、わかってる。「かかとをならしてー」の後のフロア・タムとバスドラ(ドン・ドン・ドン・ドン)がとてもよい。ドラム以外にも、イントロで聴けるベースの印象的なフレーズがラスト付近でギターによって鳴らされていたりして、「上に登った」ような気になれます。歩いている途中にさわやかな風が吹いてきたような。ほんと細かいところだけれどバッチリ。サビのコーラスもいいし(山中さわおはコーラスをつけるのがとても上手い)。
歌詞に「ロストマン」とか出てくるのは、まあファンサービスってことはわかるし、山中さわお自身、あの頃の自分を客観的に見れるようになったってことなんでしょうけど、「Please Mr.Lostman」という曲に並々ならぬ思い入れを持っている僕としては、ちょいと複雑なところです。ちょっと安易な言葉選びかなあ。もうちょっと大事にしてほしかった。でも全体的には、この曲の歌詞はとてもいいと思います。サビでカタカナの体言止めを使ってないあたりに安心した。「雨も水溜りも気にしないぜ / すぐに乾くんだ」。うん。
アルバムをコンポにワクワクしながらぶち込んで、ドキドキしながら再生ボタン押して、曲が始まった直後に「おっ、このアルバムはたぶんとてもいいぞ!」と思える――この感覚、ひさしぶりでした。改めて、名曲。って、一曲しか感想書いてないのにこの長さはなんだ。もうちょっと絞れよ僕。

#2 「ROCK'N'ROLL SINNERS」

タイトルを見て一番不安になったのがこの曲でした。「ROCK'N'ROLL」はいいとして「SINNERS」て! また和英辞書的単語だ! みたいな。無理に「背負ってしまっている」空気が漂う曲なのかなあ、とビクビクしてたのですが、蓋を開けてみたらそんなことはない、一昔前のシングルに3曲目あたりで使われそうな、軽快でスピーディーな英詩ロックナンバーでございました。ほっとした。かっこいいじゃないですか。いい具合に力が抜けていて、ノリノリ。「What do you want?」のところでさわおが右手をグッと握る様子が目に見えるようだ。イントロのスネアロールもいいですね(僕は佐藤シンイチロウ信者です)。コーラスもいいなあ。不思議な音の合わせ方をしますよね。好き。ギターソロ前にジャンプ・ポイントもあるし、ライブで盛り上がりそうな曲であります。

#3 「空中レジスター」

サードアイのツアーでも披露されていた曲ですが、同じくツアーで演奏されていた「MY FOOT」の印象がでかすぎて記憶から吹っ飛んでました。でも、一回前奏を聴いただけですぐに思い出せましたよ。鬼ポップ。サビらしいサビはないんですけどねえ。ポップ。そんなに聴きこんでないのに、もう口ずさめます。マイナーコードの使いどころが絶妙だ。歌詞も山中さわお世界炸裂ですね。ちょい躁鬱気味ですが(笑)。「狙うライフルには / 宙返りのサービスを」っていうヒネクレ具合や、「灰になってもまだ燃える / 愛に火をつけたんだよ」というストーキング具合。メロディーにうまく乗ってます。ソロも真鍋節爆発で、とてもピロウズらしい曲。

#4 「サード アイ」

この曲に関してはシングル発売時に感想を書いております。
http://d.hatena.ne.jp/mikadiri/20051125 
今も同じようなことを考えてます。アルバムの流れの中で聴いてもやはり名曲。「眩しい世界の扉が開いた / もう一度何かを始められそうなんだ」という歌詞が、今のピロウズを象徴しているようにも思える。そういや、この曲の正式表記って「サード アイ」で決定なんですか? カタカナ? 「ハイブリッド レインボウ」みたいにバシっと決まるカタカナ表記ももちろんありますけど、これは「the third eye」のほうがカッコイイんじゃないかなあ。あくまでも個人的な嗜好です。半角スペースがなんとも、文字通り間抜けな感じで……。まあどうでもいいことですね。曲は素晴らしいんだから。

#5 「Mighty lovers」

この曲大好きです。どこが好きなんだろうなあ。山中さわお独特の「半径二メートル以内の詩世界」がいいのかな。「ワインの栓が開かない週末は / アンティークのスプーンを彼女は器用に磨いてる」とか。書けるじゃん! さわおやるじゃん! みたいな。全体的にぼかしてあって、味わい深い歌詞です。こういうのが好きだ。「Juliet」的な。サビの「Love me do」が「Let me down」に聴こえてしまうのは山中さわおオタゆえの幻聴か(笑)。
曲も細かいところで気が利いててグッド。「MY FOOT」モードの音ですね。Aメロのとこのバッキング・ギターがツボ。音色、フレーズ、二本のギターの絡み具合。気持ちいい。かっこいい。サビのメロディー、コーラスの乗せ方も素晴らしい。今作は意外とコーラスが目立つ感じかな。なんかホーミーみたいな音も聴こえるし、聴いてて面白いです。アウトロのコード感がなんとなくビートルズっぽいのは、「love me do」というフレーズを使ったことと関連があるのでしょうか。たぶん無いですね。

#6 「ノンフィクション」

これも先行シングルです。
http://d.hatena.ne.jp/mikadiri/20050916#1126846808
ここに感想を書いてあります。シングルとしてはかなりいい感じだったんですけど、アルバムの流れで聴くと少し「ズレ」があるかなあ。いらない、とまでは言いませんけどね、もちろん。6曲目に持ってきたのはベストな選択だと思います。イントロのスネア、「Mighty lovers」の後に聴くと少し音量レベルが小さいような気がしました。物足りない感が。もっとスタカンと響かせて! って言いたくなる。リミックスしてほしかったな。

#7 「Degeneration」

和英辞書的タイトル二つめ。プレデターズの匂いがぷんぷん漂っています。ギターリフとか。まあこういうのはグランジっつーかオルタナティブロックの王道ですね。サビの雪崩れこんでいくドドドドド感が気持ちいい。なんといっても、「I will」のファルセットがいいですね。気持ち悪くて。気持ち悪くて最高。「アゥイエー」でこれをやってくれてたら最強だったのですが。裏声アゥイエー。想像するだけでアゥイエー。歌詞は言葉のノリ重視のカタカナ系なので、それほど好きではありません。歌詞より音。ロック。
 

さて

今日のところはこの辺でおしまい。最高のインスト「MARCH OF THE GOD」から始まる怒涛の後半部分の感想は明日にでも書きなぐろうと思います。ここまで読んでくださった方、本当にお疲れ様でした。