the pillows『MY FOOT』全曲感想・後編

前編はこちら(http://d.hatena.ne.jp/mikadiri/20060112)。「MY FOOT」から「Degeneration」まで、つまり1曲目から7曲目までの感想を書きました。8曲目からは後半。7と8のあいだで『MY FOOT』という作品は前半と後半に分かれている――ものすごく感覚的な話で申し訳ないのですが(どこから分かれてるかなんて誰にもわからない)――、僕はそう思いました。全11曲入りのアルバムなので、後半は4曲しかないっていうことになりますが、この4曲が持つ楽曲としての濃さ、パワー、クオリティ、これは前半7曲に負けず劣らない。むしろ上回っているんじゃないかっていうくらいの勢いです。そして何より、「MARCH OF THE GOD」から「Gazelle city」に至るまでの10数分の「流れ」。これは「名盤」と呼ばれるアルバムでしか聴くことのできない類のものだと思います。僕が好きなピロウズが詰まってる。彼らの「今」が溢れているし、その一方で「昔」の顔もチラリと見え隠れしていたりする。絶妙なバランス。僕が涙するのも無理はないと思います。ます。

#8 「MARCH OF THE GOD」

後半の幕開けを飾るのはインストゥルメンタル・ナンバー。とにかく最高の一言であります。聴いてるだけで身体が動く動く。「踊る」、ってのとはちょっと違う。楕円形の箱の中に入れられて、その箱が巨人にワッシと掴まれたかと思ったら、力任せにグワングワン振り回されているような感覚。弾力性のある壁にぶつかる。跳ね返る。めまぐるしく点滅する光。様々な色が光っては消えたりする。原始的でありつつ近未来的――そんな得体の知れぬ遊園地で騒いでいるような。わけわからんけどとにかく楽しいのです。本当にかっこいい曲。これまでも(ある一曲を除いて)素晴らしいインストを発表してきたピロウズですが、これはいきなりトップに躍り出てしまいそうな勢いです。
何が素晴らしいのか。インストなんですからもちろん演奏が素晴らしい。やはり一番際立つのはドラムではないでしょうか。「THUNDER WHALES PICNIC」でもそうでしたが、インストでの佐藤シンイチロウはいつにも増して凄いプレイをします。Bメロみたいな部分での(わかりにくい)「ダツーダツーダツーダカダカ」っていうフレーズとか(わかりにくさMAX)、もう僕のツボをビシビシと突いてくる。シンバルの切れがもう。アハーン。なによりスネアのハネっぷりが気持ちいい。身体が止まってはいられない。はっ、そうか、僕の入った箱を振り回している巨人ってのは、シンイチロウさんのことだったのか。
ドラム以外も魅せますよ、当然。前奏の(「前奏」もクソもないんですが)ギター、左・右とパンが移動しつつ「ジャカジャカジャ」ってやるやつあるじゃないですか。あのコード感もたまりませんね。アレンジもメリハリがきいてていいな。「YES,MORE LIGHT」っていうのはちと狙いすぎ感がありますが(笑)。でも曲にあったいい言葉だと思います。「神の行進曲」というタイトルもいいですね。「雷クジラのピクニック」とニュアンスは似たようなものでしょう。ていうかタイトル交換しちゃっても違和感ないですね。どっちも稲妻的。ラストのギターフレーズもオクターブ奏法で似た感じだし。
そしてこの曲がフェイド・アウトしたのち、少しの静寂を置いて、力強くも切ないギターの音が流れはじめ、僕の心を鷲掴みにするのでした。

#9 「My girl(Document Version)」

今作のベスト・トラック。何がいいのか、ここに書き連ねるのは野暮ってものですけど、とにかく感じたことを書いていきましょう。まずですね、僕はこの曲のイントロで涙腺が緩みました。ライブで聴いたことはあったし、別バージョンとはいえシングルにも収録されている――つまり馴染みのある曲なわけで、心構えはできていたはずなのに、そんなことは関係なかった。前奏がとにかく素晴らしすぎる。ギター二本の絡み。この音はなぜこんなにも僕の心を揺さぶるのか。わからない。とにかく美しい。いつものピロウズなら前奏はチョロっとやってすぐ歌に入るのに、この曲に関しては同じフレーズ(フレーズっていうには長いですが。いい言葉が見つからない)を二回繰り返してから歌に入っている。ともすれば聴き手を退屈させかねないこの編曲を、僕は最大限に支持します。それくらい、この前奏はグッとくる。演奏のみでここまで感情を突き動かされたのは久しぶりでした。
そして歌。メロディー、歌詞ともに、文句のつけどころがない。コードの流れにそってごくごく自然に乗っかるメロディーはとても綺麗。歌詞はもう、山中さわお節炸裂。僕が一番好きな、彼の片思いソングです。シングルのときの感想で「言葉遊びという「恥じらい」を捨て去った向こう側にある真顔の非モテ世界」こそ彼の「真骨頂」である、と書きましたが、僕は本当にそう思います。ひとつひとつの言葉が、素直なメロディーにのせられてダイレクトに届いてくる。いい歌、っていうと手垢のつきすぎた表現ですけど、それ以外に思いつかない。いい歌だ。「どこかで誰かと笑ってるのなら / それでかまわない / なんて思えない」。この歌詞は、ほんと、いい。
ギターとギターの絡みという点で、演奏面では今のピロウズを色濃く聴き取ることができ、歌詞・メロディーではずっと昔から変わらない山中さわおの世界を体感できる。彼らの「今」と「昔」が高次元で融合した――って言うとちょっと大げさですが――名曲です。

#10 「さよならユニバース」

2006年版「black sheep」。去るときに火をつけないだけ少しは丸くなってますね(笑)。これまた名曲です。ほんとこの名曲連発攻撃はやばい。無防備でただ音に漂うことしかできません。サビで、盛り上がる演奏とは裏腹に、あまりテンションに変化はなく淡々と歌われるボーカルがとても良い。力強く歌い上げてしまっていたら、この曲はダメになっていたでしょう。去り際は男らしく、でも「僕はここにいるよ」とアピールしてしまう女々しさ。相反する感情を両方同時に表現するにはこの歌い方がとても合ってます。合ってるっていうか、これしかない。黒い羊は叫ばない。
『MY FOOT』というアルバムの中で、どの曲を一番ライブで見たいですか。そう問われたら、僕はこの「さよならユニバース」を挙げます。おそらくライブのハイライトとなるところで演奏されることでしょう。山中さわおがどのような表情で歌うのか、とても興味があります。「My girl」がなけりゃこの曲がベスト・トラックなんですけどね。名曲目白押しで困る。

#11 「Gazelle city」

ラストは疾走系英詩ロックナンバー。入り方から渋いなあ。そして「It is very cold this morning.」という歌い出し。とてもかっこいい。曲単体でも素晴らしいデキですが、「さよならユニバース」のあとにこれがくるってところに『MY FOOT』の名盤たるゆえんがあるように思えます。「Come on sunshine / Let's be off」。いろんなものを受け止めて一歩を踏み出そうとしている――いや、「off」ですからね、踏み出すのではなく「飛び立とう」としている。「off」を使うあたりがとてもいいなあ。「take off」なんかで使われる「off」。離陸っていうんですか、そういう意味合いで僕は受け取りました。僕は最初歌詞カードを見ずに聴いていたんですが、「Let's be off」じゃなくて「Lift me off」に聴こえていて、「おっ、いいなあ」と思ったんです。サンシャインに「俺を飛び立たせてくれ」と言っている感じで。でも「Let's be off」のほうが、「一緒に行こうぜ」っていうニュアンスが出ていて、アルバムのラストを飾るにふさわしい。「ほうが」とか言っちゃってますが、もともとレッツビーオフなんですけどね(笑)。

全曲感想終わり

ここまで読んでくださったかた、お疲れ様でした。僕もお疲れ様でした。全ての曲についていろいろ考えたりしていてふと思ったんですが、なんかこのアルバムは「太陽」もしくは「空」がキーワードであるような気がしますね。「光」というか。今までは届かなかった「光」に、ピロウズが手を触れている。あくまで僕個人の考えでありますけれど、これは結構オオゴトなのではないでしょうか。よくわかんないけどね。そこまで考察する気はあんまりありません。ただ『MY FOOT』は素晴らしいアルバムだっていう、それだけでじゅうぶん。いいバンド。改めて、ピロウズはいいバンドです。