ドレミの歌

さきほど断髪したのですが、床屋さんからの帰り(僕はおそらく死ぬまで床屋派)、てくてくと雨上がりの道を歩いていると、後ろから早足でガキが登場しました。ランドセル、半ズボン、なんか知んないけど巾着袋を回転させている、この三点を全て満たしたイリオモテヤマガキです(天然記念物的趣きのある小学生、の意)。そうか、ちょうど学校が終わったくらいの時間なのだな、早く帰って寝ましょう、僕はそう思い、気持ち早足で家路を急ごうとしました。しかし早足どころか歩くことすらままならなくなってしまったのです。というのもイリオモテヤマ小学生がかの有名な「ドレミの歌」を口笛で吹き始めたからなのです。
ただの「ドレミの歌」だったら何の影響もないのですが、残念ながらただの「ドレミの歌」ではありませんでした。彼の口笛スキルはまだまだ未熟で、16分音符的に音が繋がっていると巧く吹けないようなのです。ドーはドーナツのド、レーはレモンのレ、ミーはみんなのミ、ファーはファイトのファ、とそこまでは良かった。ファーなファンナのファになっていたりもしたけれど、リズムに問題はありませんでした。僕の足が止まりそうになったのはそこから後の部分です。先ほど述べたように連続した音を吹くスキルがヤバスギルくらいに足りていないので、「ソ」以降がどんどん改変されてしまって、耳垢が詰まった僕の耳には、「ソーは青磯、ラッパガリヤ、しわ寄せよ」と、こんな変な歌詞が連想されてしまったのです。意味がわからん。これ以上なく「さあ唄いましょう」気分を削がれる。トラップ一家がトラップにかけられてしまう。少年は僕の困惑など知らず、どんどん口笛を続けていきます。やがて後半の「ドミミミソソレファファラシシ」部分に至ると、もはやカオス。混沌。混沌じょのいこ。えなりかずきがその場にいたら呟くでしょう。「土民味噌レバーらしい」にしか聴こえません。土民味噌レバーらしい、土民味噌レバーらしい、畳み掛ける少年。何が味噌レバーらしいのだ。歌詞については僕の妄想にすぎないのですが、ものすごくイリオモテヤマ少年を問い詰めたい気分になりました。土民味噌レバーらしい。気になって夜も満足に眠れそうにありません。なのでこれから寝ることにしました。オチのようなオチは特にありません。