虹はかかるが尼崎の魚はすすむ


ベストオブくるり/ TOWER OF MUSIC LOVER (初回限定盤)


くるりのベストアルバムをお借りする機会があったのでお借りしてお聴いておます。やっぱりとても格別に果てしなくいいですね。『さよならストレンジャー』や『図鑑』がリリースされたころに高校三年〜大学一年の多感極まる青春坊やだった僕はいわゆる「くるり直撃世代」なので――そんな世代があるのか知りませんがとりあえず僕がここでいわゆったのでいわゆる直撃世代があるとする――くるりに関してはかなりの盲目っぷりを披露してしまいそうですけど、つとめて客観的に聴いても、やっぱりとても格別にやるせなくいいです。細かいこと考えずに「いいなあ」と思える。一方でギターやベースのフレーズ、コーラス、曲構成などなど、少し小難しく聴いても「いいなあ」と思えるあたりがやっぱりとて(中略)くいいです。ガチでポップ・ミュージックやってちゃんと売れてるのが素晴らしいことですね。「いいなあ」と思えるフレーズを見つけてくるのがきわめてうまい(「見つけてくる」という言い方は誤解を生むかもしれません。あまりお気になさらず。僕個人の受け止め方です)。音楽的な面でもそうだし、詩作面でも「いいなあ」フレーズが満載。正直岸田繁の歌詞で感動したり何かを得たりとかそういう経験はありません。ただ「いいなあ」と思う。雰囲気を掴む術を心得ている感じ。「ゲヘヘ、こういう歌詞書いとけばええんやろ」と岸田氏がニタニタしつつ作詞してる、ってわけじゃありませんよ。そういう側面もなくはないなあと思いますけど(笑)、ポップスを作る才能に長けているのでは、と思っただけなのです。言うなれば音楽の鍼師。ポップ・ミュージック・ファンのツボを知っている。鍼で経穴をぷっすりされたら、そりゃ気持ちいいに決まってる。ドゥルスタンスパンパン。
昨今のパワーポップ・ブーム(パワーポップバンドの来日が相次ぐ現在、これはブームといってもよいのでは)にあてられた僕は最近パワーポップ以外聴いてないのですが、そんな耳でもくるりの曲はすんなり入ってきます。というか、「THANK YOU MY GIRL」なんてパワーポップそのもの。元気なリズム、パワーのあるギター、キャッチーなメロディー・コーラス、ハンド・クラップ、そして歌詞。おまけに二分弱。どこ見てもパワーポップです。昔から好きな曲ですが、改めて夢中になってしまった。他にも「おっ」「おっ」とハっとする曲がいっぱい。聴き込みまくった曲ばかりなのに。そういう意外な深みもくるりの魅力ですね。発見がたくさんある。今はとにかくハンド・クラップに敏感です。ほら、パワーポッパーなので。「ほう、こう使うか」とか思ったりして、最近宅録熱が盛り上がってきた身としてはものすごく参考になる。ついつい夢中になってしまう。すごいぞ、くるり。「ロックンロール」なんかも夢中になります。これもパワーポップ。単純なのに複雑で、こんな曲作れたらいいなあなんて君に電話しようと思った。
それにしてもバラエティに富んでますねえ。改めて思います。ピコピコサウンドがあったりキチガイサウンドがあったりと思いきや、叙情溢れるギターロックで泣かせてきたり。守備範囲がとても広いあたり、僕が現在かなりお気に入りのバンドHellogoodbyeに共通するところがあるかもしれません(彼らも来日!)。ていうかくるりはもはやパワーポップバンドではないか。根幹にあるのはパワーポップなのではないか。「青い空」のような変態ロックにあんなポップな手拍子を加えるバカはパワーポップ野郎しかありえないのではないか。むしろ僕が好きな音楽は全部パワーポップなんじゃなかろうか。つーことはパワーポップを作るには音楽マニアでなければいけない、というのが持論なので、結局のところ僕は音楽マニアの作る音楽が好きなのであった。人に色々言われようと構わんのであった。この僕は僕のもの。