Struggle

クリスマスムードが雨後の竹の子のようにムクムクとピョンピョンと膨れ上がっている今日この頃、僕は部屋で凍死しかけています。室温が室温としての機能を果たそうともせず、平然としたツラでお外の気温とお揃いのセーターを着ていやがる。僕の体温だけ仲間はずれにされています。仲間はずれというか、もう知らん。奴らは僕を知らない。知らないのだからこちらの都合に合わせてくれるはずがない。由々しいことだ。じつに由々しい事態である。僕は白面の者と戦ったことなんかないのに、なぜみんな僕のことを忘れてしまったのか。僕はただ暖かいみそ汁が飲みたいだけなのに。身体がどんどん冷えていく。あア、寒い。唇はもうかさかさだ。震えることすら面倒になってしまった。マッチをすっても燐の香りしかしない。ああ、僕は、このまま――……という凍死ごっこをやっていたら足の先っぽの先(これを専門用語で先々の先という)の感覚がなくなってきたので僕は暖房をつけた。室温はようやく僕の部屋に帰ってきてくれた。文明。
さてクリスマス。先日、とある店に入ってうろうろしていたら、店内放送が耳に入ってきた。インストゥルメンタル版の「赤鼻のトナカイ」である。誰でも知っている曲だ。歌は入っていないけれど、ついつい脳内で歌ってしまう。“真っ赤なお鼻の トナカイさんは いつもみんなの わらいもの”。うつむいているトナカイさんの像が浮かんでくる。ああ、かわいそうに。でも彼は一人じゃない、“でもその年の クリスマスの日 サンタのおじさんは 言いました”。そうそう、“くらいよみちは
「業務連絡。〜さんにお電話です」
曲が途切れ、現実に引き戻される。なんてところで切るのだ。トナカイさんだけでなくサンタさんまでうつむいている。リストラクションの憂き目にあったサラリーメンのように、顔をあげることができない。僕はすっかり陰鬱な気分になって、買い物カゴを元に戻し、何も買わずに店を出た。夕暮れの時間であるはずなのに、だいだい色はどこにも見えず、空はぶ厚く曇っていた。自転車の後輪がガタガタいった。一番星も見えなかった。暗いよ、道は。そう言いながら靴下にプレゼントを入れるサンタさんのことを思った。おそらく彼は、バーコードバトラーの代わりにバーコードウォーズを贈るのだ。僕の父のように。