Farrah@代官山UNIT 07/02/06

無人島に持っていきたいポップソングは?」と訊かれたら即座に「Farrahの『Tongue tied』!」と答えてしまうであろうくらいに好きなパワーポップ・バンド、ファラーの来日したのである。これまで僕は、お気に入り洋楽バンドの来日を耳にするたび「キターよっしゃー行くー」とか思いつつ「でもお金がー」とかしぶりつつ「あー行けなかったー」とか悔やみつつな日々を送っていて、それはもう後悔が直立不動でいつも目の前にいるほどであった。直前の日本語を和訳すると、好きなバンドの来日ライブを見逃してばかりだった、となる。しかし去年、シルヴァー・サンのライブを見に行き、いたく興奮を覚えた僕は、これからはお金をケチらんですたいと博多言語で決意し、さっそく有言実行したのであった。僕はこの目でファラーを見たのだ。
楽しいの一言に尽きる夜だった。好きな曲のオンパレードのエレクトリカルパレードのゼロヨンレースであった――とかいうわりに僕は身体を動かさないので、傍目には「アラ控えめな人。かっこいい。これが恋?」と映ったであろう。しかし後方からフロアーの様子を見るに、どうやらファラーのファンには僕と同じような気質の方が多いようだった。盛り上がってない、とは決して言わないが、総じて大人しかったといえる。でも気持ちわかるわよ。大好きな曲を聴いたら飛び跳ねたいしハンドクラップしたい。でもトゥーシャイシャイ大和魂がそれを許してくれない。もちろんマリアさまもどこかで見ている。「『Daytime TV』だ!」と思ってもなかなか身体が反応してくれない。少なくとも僕はそうである。しかし楽しかった。本当だ。心は踊り狂っていた。先述の「Daytime TV」に「Wristband Generation」「I Wanna Be Your Boyfriend」(やはり超盛り上がり)「No Reason Why」「First&Last」(名曲!)「Life's Too Short」などなどなどなど、バースト・ナンバーもミドル・テンポも、グッドメロディーの目白押しである。これで幸せにならないほうがおかしい。
圧巻だったのは後半の後半、サード・アルバム収録の名曲「Fear Of Frying」から始まる怒涛の畳み掛けである。「飛行機に乗るのが怖いわあ、でもいつか克服して素敵な世界を見るの」という(超かいつまみ)、ちょっと弱々しいけれども硬い意志を感じさせるこの曲は、言葉以上の意味を僕に伝えてくれる。そしてファースト・アルバムのトップを飾る「Terry」(後半の展開がたまらない曲)と続き、超大大名曲「Tongue Tied」! 力強いような情けないようなリフから始まるスーパー・ポップ・ナンバー。さすがにこの時ばかりは僕も動いた。腕を振り上げ、歌った。「If only you knew what a state I'm in」。こんな歌詞、パワーポップでないと聴けない。ここで歓声に包まれメンバーは一旦袖へ引きこもりやがる。しかしそんな愚行を許すはずがない。「開国しやがれボケーッ! 坊主頭をぶん殴ってみれば文明開化の破壊力」と、叫びつつ(叫んでない)手を叩いていると、メンバーがアンコールに応えて登場し、「Do You Ever Think Of Me」! この曲が大好きすぎる僕はまた狂喜した。ハァハァしていると、ハァハァする間もなく「Only Happy When She's Sad」――ということは、「Living For The Weekend」! この曲が大好きすぎる僕は懲りずに狂喜した。狂喜したまま時は過ぎていった。もういっこアンコールはあったけれど、僕は既に「イッた」後だったので、「ああ、これでファラーともお別れなのだ」という悲しい寂しい気持ちで支配されてしまっていた。切ない終わり。でもそれもパワーポップらしくていいかもしれない。
とにかくいい夜だった。生で聴くファラーのドラムは思ったほど軽快でなかったが(笑)、そんなのは些細なことだ。UNITを出た僕はさっそくiPodを耳に装着し、ついさっき聴いたばかりの曲をまた聴いた。もう寂しさはなかった。ただ少しだけ、代官山の街を歩く速度が遅くなっただけだ。恵比寿駅についてしまえば、否応なしに現実に引き戻される。それをなんとか遅らせようとしていたのかもしれない。静かな夜道を歩きつつ、ニヤつきつつ小声で歌う猫背の男性はさぞ気持ち悪かったであろう。セレブの皆様ごめんなさい。でもそれくらいは見逃してほしい。僕はハッピーだったのだ、とんでもなく。
曲順の記憶はあやふやなのでもう記憶が改竄されているおそれがあります。