The Beatles『LOVE』


Love


第43次ビートルズ・ブームが僕の中で湧き起こっている。というのも、昨年発売されたビートルズの“新作”『LOVE』を今さら買って、今さら盛り上がっているせいである。「ビートルズの曲を使ったサウンド・コラージュみたいなもん」と聴いていたので、別にビートルズのCDを全部買うほどファンではない僕は(同時に“全部買えるほどお金がない”のだが、それはさておき)普通にスルーをかましていた。一塁線上に強い打球が転がってきたときの佐伯選手のように我関せずを貫いていた。しかし先日、YouTubeというJAS○AC愛護団体によるサイトで『LOVE』に収録されている「Within You Without You / Tomorrow Never Knows」の映像と音を聴き、それがとても新鮮でカッコよく、さらにネットで調べたところリマスターが施されているということを知り、いてもたってもいられなくなりタワーレコードに走ったのである。走っている途中で蛇行運転を繰り返すババアの自転車に妨害されたり三列横隊で道路を占拠するババアインパルスに妨害されたりはしたが、無事購入することができた。もちろん輸入盤だ。だって安い。
聴いてみると、いきなり「Because」のアカペラで始まて「おおー」となる。歌と歌の「間」が『Abbey Road』のバージョンと比べて長く、前につんのめってずっこけそうになるも、このコーラスは凄まじく美しい。続いて「A Hard Day's Night」のイントロが鳴り、「The End」のドラムソロが響く。その上に「Get Back」が重なっていく。おそらくビートルズをマジで好きな人はこのあたりでCDを叩き割るのだろうが、オタの中ではライトな部類に入る僕は叩き割るどころかノックアウトされた。ウヘヘヘとなった。普通にカッコイイのである。そしてネットでの評判どおり、音がいい。が、この「音のよさ」も賛否両論あるだろう。ビートルズをマジで好きな人は粉々に叩き割ったCDのかけらを並べて「オリジナルへの冒涜」という文字を作るかもしれない。「涜」の字を辞書で調べるかもしれない。部類なオタでライトな僕には普通に音が良いほうが単純に嬉しい。涜の字を調べなくて済む。
何回も聴いているが、それでも全体への評価は「いいんじゃね?」の一言である。こういう遊びなら大歓迎だ。ネットで聴いた「Within You Without You / Tomorrow Never Knows」はやはりカッコよかったし(2007年の今、ロックDJイベントで流されたとしてもそんなに違和感はないだろう)、「Drive My car」のリフにいろんな曲の歌をのっけてみたりする試みも面白かった。「Being For The Benefit Of Mr. Kite」に「I Want You」の盛り上がりどころが繋げられているところなんて、キマりすぎててニヤニヤが収まらなかったほどだ。僕が大学生の時代にこういうのが出たらバンドでやろうとしていたに違いない。大胆な合体モノ以外は、言われているほど「破壊」されておらず、その辺のバランス具合も絶妙ではないだろうか。「素材」として使われている曲はともかく、コラージュの基盤として扱われている曲は結構大事にされていて、ほとんどいじられていない。むしろリマスターが施されたことでカッコよさはアップしているように思える。「I Am The Walrus」「I Want To Hold Your Hand」「Here Comes The Sun」「Revolution」「A Day In The Life」などが“大事にされている曲”だが、主にドラムとベースがクッキリしたおかげで、驚くほど今の時代の音になっている。やはり元の録音が素晴らしいのだろうか。「Revolution」のイントロのリフなんて、暴力的にシンプルなディストーションで震える(やっぱこの曲はシングルバージョンがいい)。こんな音、現在進行中のロックバンドでもなかなか鳴らせない。
Hey Jude」〜「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(Reprise)」〜「All You Need Is Love」の流れでアルバムは終わり、フゥと一息ついた僕が思ったのは「この音質でビートルズのCDを出しなおせ!」ということだった。本当にそれに尽きる。現行のCDはお世辞にも音がいいとはいえないし、単純に音量レベルが低い。CDを単体で聴けば別にそれほど気にならないけれど、iPodなどのプレイヤーに入れて他のバンドと混ぜて聴いた場合、残念ながら埋もれてしまう。悪目立ちと言ったほうがいいか。曲それ自体は今でも通用するほど瑞々しい魅力に溢れているだけに、これは勿体なさすぎる。切にリマスター盤発売を望む。hopeじゃなくてdesireだ。


余談だが、タワレコからの帰り、年始の挨拶を兼ねて実家に寄り、「ビートルズのCD買ったよ」と母に言ったところ、「聴かせろ」と包丁で脅され(ちょうど料理中だった)、その場で開封させられることになった。僕は自宅に帰ってヘッドフォンを装着して聴きたかったのだけれど、包丁の輝きがそれを許さなかった。母の感想は「アラいいじゃない」だった。「でもタイガースのほうがカッコイイわね」だった。さすがだと思った。