the pillows 『Wake up! Wake up! Wake up!』


Wake up!Wake up!Wake up!(初回限定盤)(DVD付)


まさか再び僕のもとに「ピロウズ三昧の日々」が訪れようとは。思いもしなかった嬉しい誤算に、これだから人間はやめられないなあと思いました。人間になったホイミンもおそらく同じ気持ちなのではなかろうか。ベムやベラやベロやベリもそんな気持ちを味わいたいがため「早く人間にナリタァーい」と歌ったのではなかろうか(ベリ?)。ピロウズファンでよかった。だって今超ハッピネス。全開ハッピネス。音楽を聴くのが楽しいです。前作『MY FOOT』もいいアルバムだったとは思うのですが、ところどころ顔をしかめざるを得ない部分があって、夢中になりきれるのはインストから始まる後半部分だけだったりもしました。しかし今作『Wake up! Wake up! Wake up!』は一曲目からずーっと笑顔マン。Wake upを三回にわたって繰り返すのにも納得がいくポップアルバムになっています。そう、ポップなのだ! 昔のピロウズにあったような「聴いているだけで胸がヒリヒリしてくる曲」はないかもしれません。「これは俺のために作られた!」ってな感じで掴んだら離したくなくなるような、他の誰にも聴かせたくなくなるほどの曲もないように思えます。それでも鳴っているのは間違いなく僕が大好きなピロウズの音で、そのことが何故か無性に嬉しい。ピロウズ大好きと武田鉄矢以上の直球さで告白できてしまうのが嬉しい。
音的な部分で気がつくのは、前作で印象的だったギターの応酬は身をひそめて、山中さわおはストレートにリズムギターを弾き、真鍋氏はいつものように曲が要求するフレーズをサラっと弾いている点。たとえば、『MY FOOT』モードであったら「プレジャー・ソング」の前奏では何かしら単音フレーズでのギターの絡みがあったのではないかと思うのですが、聴こえてくるのはごくごくシンプルな、いつもの音。後退とは思いません。いい歌をいい曲にアレンジしようとしたらそうなっただけのこと。じゃあマイフットの曲はいい曲じゃねーのかよっていうとそんなことはもちろんなく、うん難しい。僕の主張is破綻ed今。でもですね、ホントいい曲揃いなのですよ。そうとしか言いようがない。ピッチピチの魚は刺身でじゅうぶんなんです。醤油をチョロっとつけるだけでいい。とっても美味い。
『GOOD DREAMS』からこのかた、「あーこういう感じなのね。じゃあ次はこんな感じになるんでしょうね」っていう冷めた予測が半端に当たっちゃったりしてたもので、新作に対する期待はあんまりなかったのですけれど、いきなり思いもしない方向へ突き抜けたピロウズに僕は再び夢中になっています。ギャグで「パワーポップアルバム作らないかなあ」なんてことは書きましたが、まさか本当にそんな路線に来るとは。今はこのアルバムしか見えません。次がどうかなんて考える暇もない。晴れた日に聴いて、むふふと笑うのです。



さて、ピロウズファン以外置いてけぼりの(ファンも)全曲感想をこれから書こうと思います!

01. Wake up! dodo

勢いよく扉が開いたかのようなSEに続くのは、なんとも珍妙な、しかし超絶ポップなギターリフ! なんと変テコリンなオープニングであろうか。そしてズンズン進んでいくリズム。軽やかで力強いサビは、漫画でいう「ページめくると見開き二ページで表現された青空」とでも例えられようか。タイトルを目にしただけでアウト判定していた自分が恥ずかしくなります。一曲目を飾るのにふさわしいポップさにバンド感。耳ねっこをグイと掴まれてしまいました。タイプは違えど、「Ride on shooting star」のような、飄々としたドポップさ。一回聴いただけで「おっおっ」となるパワーがあります。ワンコーラス終わったときの「ドーン」ていうブレイクがとにかくかっこいい。ベースを色々こねくりまわしたくなるような間があるのに、潔く「ドーン」だけで、後は弦の振動に任せるあたり。サビのギターもいいなあ。キラキラしたアルペジオ。青空感がばらまかれまくっているかのようです。僕の師匠、佐藤シンイチロウかますかます。基本はリズムキープなんですが、要所要所でイカしたフレーズを聴かせてくれます。三回目のサビの終わりらへんなんてたまらない。バスドラの踏み方がもうね。いきなり濡らされました。歌詞もまとまってて良いです。カタカナに逃げたりしてない。「予言通り終わりが来たって/行儀よくなんて眠れない」。

02. YOUNGSTER(Kent Arrow)

3コード! コーラス! 手拍子! これすなわちパワーポップ! とても、とてもいい! これはライブで盛り上がるでしょうね。これなら盛り上がっても許す(何様だ)。とにかくドがつくほどのパワーポップなので、別にそんな特筆することはありません。「この曲いいね!」って笑い合えるような曲。「振り返れば思い出はそのまま / 変えられるのは未来だけなんだ」。くおお!

03. プロポーズ

ライブで初めて聴いたときは「またこんなんかい」みたいな感じで、いいこと思いついたのび太を見るドラえもんのような白い目を向けていたのですが、こうしてCDで聴いてみると、なかなかどうして良いではありませんか。むしろ前二曲との繋がりを考えれば全然アリですらある。こういう(いい意味での)オチャラケた曲で「枕」という言葉を使ってしまうあたり、まだまださわおはヒネクレていらっしゃる。今までだってピロウズ好き好きって言いまくってたのに、この期に及んでプロポーズするとは(笑)。どんだけ愛してんだよ。恐れ入りました。聴きどころは間奏でしょうか。デデデデ、デデデデ、に真鍋氏のクネクネソロが絡む、と。最早十八番になりつつあるパターンですね。サビの入り方なんかも十八番。「ほうれん草と純愛で / 三流の悪党に勝つ」って、ナンセンスが行き着くところまで行って面白い。95のデタラメに4の真実味で出来上がったような曲(残り1は「フゥー」)。

04. スケアクロウ

曲の感想は過去ログにあります(id:mikadiri:20070405#1175746930)ので、そちらをどうぞ。
さて、アルバムの中でこの曲がどうなのか、ってことなんですが、僕はちょっと浮いてるかなあと思ってしまいました。もちろんとってもいい曲なんですけどね。ウキウキポップ満載のこのアルバムにおいて、スケアクロウは「ガチ」すぎるかなあ、と。ストリングスのアレンジも一因か。アルバムバージョンとしてバンドのみのオケを録りなおしたりしていたら悪目立ちすることはなかったかもしれません。ほんと曲はいいんです。でも『Wake up! Wake up! Wake up!』というパズルを完成させるには、少しだけピースの形が違っているように思えます。まあ、収録しないわけにはいかないのでしょうけど。

05. BOAT HOUSE

お気に入りの一曲。別にどってことない普通の曲なんですが、なんかとってもピロウズな感じ。それがたまらぬ。ピロウズの曲を聴いて「ピロウズな感じ」と思えるのは結構ひさしぶりではないか。いや、前作でも「My girl」とかあったか。しかしなんか「ひさしぶり」な気がする。とにかく山中さわおの歌が冴えてます。巻き舌が多少鬱陶しいですが(笑)、サビの「こーんなー」の「こー」や「そーおーキミだけさ」の「そー」あたり、とっても伸びやかで力のある声だと思います。特に「そーおー」のほう。聴いてて気持ちいい。やはり僕はさわおの声が好きだ。あとこの曲のベースがかなりとてもすごく好きです。ランニングベースと言っていいのかわかりませんが、四分のリズムでボンボンボンボンと音が変わっていく。短絡的に「ビートルズ的」なんて言ってみたり。「ただーひーとーりのー」の部分で聴こえるベース・ラインは、かなりポール・マッカートニー風です。「With a little help from my friend」みたいな。こういうミディアム・テンポの楽曲でベースがかっちりしていると、とてもカッコイイんですよね。ピロウズのここ最近の曲ではベースが引っ込んじゃってるケースが多いんですが、「BOAT HOUSE」はこの“ベース前面”ミックスで正解。サビではちょこちょこと小技を繰り出したりしてて、鈴木淳もなんだかんだで結構なベーシストであることを再確認しました。もう鹿島さんの影は追わない。さて歌詞はというと、これといって響いてくるフレーズはないんですよね。平均点というか。でも好きな曲なんです。人間ってふしぎ!

06. プレジャー・ソング

個人的にアルバム内でのベスト・トラック。とにかく好きです。僕の好きなピロウズ、僕の好きな音楽が詰まってる。芯の太い美しさを持ったサビのメロディーが僕を掴んで離しません。Bメロを作らずに無理やりサビへ突っ込んだり、盛り上がるべきところでヒネクレて平坦なメロディーを持ってきていた山中さわおが久々に放った会心の旋律。作られた名曲じゃなく、自然に湧いて出てきたいい曲って感じがします。歌詞のノリにも全く不自然さはなく、素直に言葉をメロディーに乗っけている印象で、わけもなくグッときてしまいます。「なんだよ、できるんじゃんかよー」と涙目でさわおにありがとう。にしても、なんでこんなに響いてくるのでしょう。最初のコード進行が往年のピロウズを感じさせるから?(「Ninny」とか) でも、昔っぽいから好きなんていうそんな単純なものでもないような気がします。理屈じゃないんでしょうね。ピロウズだから。簡単なこと。一年前の僕だったらこんなこと絶対に書いてないです(笑)。余裕で掌返す男。
ひとつ書いておきたいのは、サビで印象的に使われている「アゥイエー」のこと。バカにする気はさらさらないのですけど、音楽的に目新しさはあまりないピロウズが生み出した数少ない発明が「アゥイエー」だと思ってます。日本人が「OH YEAH」とか歌っても根っこのところでは不自然さしかないわけで、結局「欧米か!」の真似事に過ぎないのですが、「アゥイエー」は違う。もちろん元は「OH YEAH」ですが、山中さわおが感情をほとばしらせて歌ううちに「アゥイエー」になった。立派な、日本独自の音楽的感嘆符だと思います。中村一義は「そう!」とか「さあ!」といった純日本的な叫びを発見しましたが、それと同じくらい「アゥイエー」には意味がある。ピロウズが「アゥイエー」を敬遠するようになって少し悲しかったのですけど、この曲で、真正面から、照れもなく「アゥイエー」と歌ってくれたのが僕は嬉しい。プレジャー・ソング。本当に僕にとってはそんな感じです。
歌詞もいいですね。「戦場へ〜」のくだりもいいし、サビのフレーズもシンプルでグッとくる。まるでメロディーと歌詞が同時に出来上がったかのように「それしかない!」って感じの言葉たち。とにかく全部がいいや。ベタボメや。


続きはまた明日。→http://d.hatena.ne.jp/mikadiri/20070513