the pillows『Wake up! Wake up! Wake up!』

Wake up!Wake up!Wake up!(初回限定盤)(DVD付)


昨日に続きピロウズの新作についてあれこれ並べ奉ります。その1はこちら(id:mikadiri:20070512#1178930106)。「Wake up! dodo」から「プレジャー・ソング」まで書きました。今回は特に「こっから後半だな」っていう分岐点らしきものはないですね。CDのジャケットみたいに、車が11台、ブイーと間をおかず走ってくるような感じ。目ン玉充血させた変なクマがアドレナリン放出させつつ走り抜ける某アルバムと少しだけ重なります。こっちはあの頃より落ち着いてる。それはそれでよろし。

07. シリアス・プラン

どっかで聴いたような音要素の集大成とでも言えましょうか。目新しいところなんて一つもない。でも普通にカッコイイ。好きな曲。オルタナど真ん中ですね。ソソレドシシ・シドド・ソラソラ。「超お気に入りの曲」にはなりませんが、なんかほっとけないシャイなアンチクショウ的な、よく見るといいところがいっぱいある可愛い奴的な曲です。そう、カッコイイというよりカワイイのだ。書いてて気づいた。たとえばサビ前の口笛ソソレドシシとか、無意味に綺麗な裏声ユニゾンとか(なんか笑える)、妄想の中の“彼女”のサラサラヘアーを表現するかのような真鍋氏のフレーズとか、そんな細かい要素がカワイさを演出してます。
「妄想の中の彼女」と書きましたが、僕の解釈では、この曲の歌詞は全部妄想です(大間違いだったら怖いので「僕の解釈では」と保険をかける)。「こんなこといいなできたらいいな(彼女と)」と夢想する人に向かって誰かが「頭だいじょうぶ?」って言って、夢想人プルプルしながら「真剣に作戦中なんだ! ジャマしないでくれたままままえ」みたいな。素晴らしくピロウズ的な、というか山中さわお的な詩世界。「疑似体験でクラクラ / シナリオ通りの愛でさえもハッピー」てお前。「考案中」とか「作戦中」とか、いわば「明日本気出す」じゃねーか。なんて愛おしいんだ。シリアス・プランと連呼するサビで思わず微笑んでしまいます。あと「serious」の発音が微妙にちゃんとしてるのも微笑ましくてニタニタしてしまう。さわお守ってあげたい。

08. Skinny Blues

これまたサビのポップ度が耳をひっ掴む一曲。歌詞の傾向はいわゆる「最近のピロウズ」で、あんまり好きな言葉のセンスではないのですけど、曲の良さに救われてます。というか佐藤シンイチロウ炸裂。あのヌボーとした男からどうしてこんなみずみずしい音が生み出されてくるのか。音楽って本当に不思議です。サビ前のフィルイン、「ドゥルトゥルトゥットゥッ」(キレのよさを再現するため半角カナ。文字化けしてたらすまぬ)っていうフレーズが気持ちよい。16分か32分かわからないのですが、細かいスネア・プレイがキマってますねこの曲は。サビでの力強いシンバル(オープン・ハイハットかもしれぬ)の響きもマル。色んなところでの強弱が曲にメリハリをつけててマル。もう全部マルだコノヤロウ。真鍋氏も負けてません。ギターソロでのあんな早弾きはなかなか聴けるものじゃない。ピッキングハーモニクスも然り。でもソロの構成は紛れもなく真鍋氏のものであって、うーむプロだなあ。そして我らが山中さわおも負けてません。「闇があるんじゃない / 光がそこにないだけ / 自分次第でホラ / shining! shining!」てお前(笑)。ピロウズの汗クセえ一面が垣間見える曲です。

09. プライベート・キングダム

いっちゃん初めのブレス音でドキっとするようになってしまいました。これは恋か。一本足りない赤の心と書いて恋か。僕は山中さわおに恋をしてしまったのか。んなもん、昔からしてるわい(なんだこの独り寸劇は)。別にこれといった特徴のない曲ではありますが、なんか、なんとなく、かなり好きです。さわおギターの音がいいですね。フェンダーサイクロンになってからというもの、僕の好みの音からは少しずつずれていってしまっていたさわおギターですが、ここ最近、またいい音を聴かせてくれるようになってきました。テレキャスターシンラインとはやっぱり違う質感ではあれど、「リズムギター」っていう役割にふさわしいシャープさが出てきた。これは歓迎すべきことなので歓迎します。あとやはり佐藤シンイチロウ。地味に、しかし確実に僕のツボを突いてくる。サビ前のフィルインなんかもう、「アウッハウッばああう!」と思わず唸ってしまう。サビんところでは左チャンネルの奥のほうで小さくスネアが聴こえるんですが、これは別のトラックを重ねてあるのかな? よくわかりませんけど、さりげなくいい感じ。この曲の「“あっち”と“こっち”感」がそこはかとなく出てます。それ以外にも細かいアレンジが効いてて、ヘタすればノッペリしてしまいそうな曲をピリリとさせてますね。最初のサビ後に聴こえるベース&ギターの「ジャカジャカッ」なんて、山椒は小粒でもピリリとなんとやらの象徴です。痺れるフレーズ。にしても、ラストはあっけなく終わりますねえ。この曲だけじゃなくて、このアルバム全体に言えることですけど。メジャーセブンスをホワアアーンと響かせるピロウズ・パターンがないのはちょっと寂しいですが、超潔くていいのではないかと思います。

10. Century Creepers(Voice of the Proteus)

インストキター!


「こーこーはーしーずーかでー」


来てない。
僕の最初の印象は「なんだ歌うのかよ」でした。酷い。でもインスト・ナンバーと勘違いしてしまうほど力強くカッコイイオープニングです。「ジャージャージャージャ」ときて、ドラムがなくなるところのギターがカッコイイです。まさかここから歌に入るとは思いもよらぬバンド・サウンド。この曲は「最近のピロウズ」って感じですね。基本的にはもちろんカッコイイんですが、「最近のピロウズ」で僕が好きじゃない部分、つまり「Bメロがほとんどなくていきなりサビで叫び出しちゃう展開」になっていたのが少しだけ残念でした。別に凝り固まった作り方しろとは言いませんけどね。この曲では唐突感が否めない。サビがもんのすごくパワフル(色んな意味で)なだけ余計に置いてかれてしまいます。僕の好みではないってだけですけどね。インストのほうがよかっゲフンゲフン! でも演奏は本当にカッコいいなあ。これでおっさんバンドっていうんだから恐れ入るしかない。

11. Sweet Baggy Days

誰も来ない街を買って
顔見知りの猫と暮らしてる
ありったけのアンプつないで
サロンミュージック鳴らしたいな

今作のベスト・トラック。「え、プレジャーソングがベスト・トラックじゃなかったの? ベストがふたつ?」なんて野暮なことを言いなさるな。最高が何個もあって何が悪い。悪くないはずだ。むしろ最高だ。最高な曲がいっぱいあって最高だ。どっちも比べることなんてできないくらい良い曲です。というかこんな曲で終わるアルバムって、滅茶苦茶カッコイイじゃないですか。それだけでもうオッケーですよ。前作『MY FOOT』のラスト「Gazelle city」もキマってましたけど、今回も素晴らしい。キュッて瓶の蓋を閉めるような終わり方ではなく、長くまっすぐ続く道をどこまでも進んでいくエンディング。どことなく『RUNNERS HIGH』の「確かめに行こう」と印象的に重なる部分があります。終わりなんだけど終わってない。これが始まりなんだ、という。
聴きどころはもちろんたくさんあるのですけど、この曲に関してはあんまり細かいことを書く気になれません。目を閉じ、音に身をまかせる。それでじゅうぶんなんです。沈んでいく夕焼けに一日の終わりを知るのではなく、数え切れないほどの“明日”を感じる。こらえきれずに走り出す。意味もなく飛び跳ねてみる。着地に失敗して足をくじいたりする。痛えとかなんとかわめいて、どうしようもなく生きている自分に思わず笑ってしまう。そしてまた、走り始める。

全曲感想おわり

僕の主観のみで構成された感想文を最後まで読んでくださったあなたは間違いなくピロウズを、そして音楽を愛してやまないナイス・ガイ(レイディー)でありましょう。ありがとうございました。少しでも「ピロウズっていいね!」という僕の満面の笑みが伝わっていればこれ幸いでございます。アルバムのツアーが楽しみです(O-EASTのチケットは取れました。誰かクアトロのチケください)。ライブでピロウズと再会するまでしばしのあいだ、このアルバムを聴いてニンマリしておくとします。ピロウズ、グッジョブ!