FIRE BOMBER『Re.FIRE!!』

Re.FIRE!!
とにかくビックリした。なにがビックリって、ファイアーボンバーのニューアルバムが発売されていた事実にもだけれど、そのデキがすっごくすばらしく良いことにである。さて、ここを昔から読んでくださっている神様のようなお人は「ああ、またid:mikadiriの悪い病気が始まった」とおわかりであろうが、大半の人は「ファイアーボンバー? ボマーじゃないの? 何言ってるのこの人?」と困惑しきりだろう。無理もない。簡単に説明すると、ファイアーボンバーとは十年以上前に放送された『マクロス7』というアニメに登場する架空のバンドだ。視聴者の印象に残る曲を作中でたくさん聴かせてくれた。『マクロス7』の主人公でありファイアーボンバーのメンバーでもある“熱気バサラ”というキャラクターが所構わず繰り出す「戦争なんてくだらねえぜ、俺の歌を聴け!」という台詞はわりと有名だと思う。つまり、ファイアーボンバーの曲ってのは平たく言ってしまえばアニメソングだ。しかしバサラの歌を担当していた福山芳樹さんによる、パワーに溢れつつも透きとおる歌声には、「そりゃ戦争終わるわ」と思わせてしまうくらいの力があった。少なくとも僕にはそう思わせた。僕はファイアーボンバーに夢中になり、「MY SOUL FOR YOU」という曲を弾きたい一心でギターを練習した(当時の僕はF#mのコードを押さえられずに挫折しまったけれど)。なにが言いたいかというと、ファイアーボンバーは、それまでは「聴く」だけだった音楽を自分で「弾く」、そして「作る」ものでもあると気づかせてくれた思い出のバンドなのだ。曲を作ったりバンドをやったりしてる人には誰にだってそういう“きっかけ”があるものだと思う。それが僕には彼らだった。アニソンだからなんぼのもんじゃい。
で、その特別なバンドの新譜が世紀を超えて届けられ、そのデキが良い、ときた。僕がこんな長文を改行もせずにつらつら書いてしまうほど興奮している理由が少しでも伝わっただろうか。すげえバンドなのだ。……とはいえ、当時のファイアーボンバー楽曲を今聴くと、いろいろ惜しい部分はある。ボーカル部分は文句のつけようがないけれど、バンドサウンドのほうは僕の好みからはかけ離れたものになっていることが多い(「Sweet Fantasy」や「Hello」など、文句のつけようがないアレンジがなされた曲も当然ある)。さて13年ぶり(設定上)のニューアルバムでファイアーボンバーはどんなサウンドを聴かせてくれているのか。気に入った曲をクローズアップして感想を書いていこうと思います。僕以外誰も得しない。でも僕得ならばいいのだ。


熱気バサラなんて知らないけどこの後も読んでみよう、っていうお優しい人のために、新譜の曲を少しずつ聴ける動画を見つけたので貼らせていただきます。よかったらこれを再生しつつ、「ロックイズアライブwww」と笑って読みすすめてください。

01.弾丸ソウル

「弾丸ソウル」て! バカ丸出しすぎる。そしてカッコよすぎるタイトルだ。ファイアーボンバーの新譜一発目としてこれほどふさわしい言葉もあるまい。クレジットを見ると、作詞者はK.INOJOさん。ファイアーボンバー歌詞の多くを担当したお人だ。納得。のっけから150キロ直球ど真ん中のギターリフが最高。ヒネリゼロのフレーズ、でも素晴らしい。ロック! 「BANG BANG BANG 俺の名前は弾丸ソウル」というアホ全開の歌詞に説得力を持たせてしまう熱気バサラ福山芳樹)の歌は相変わらずパワーに溢れている。しかしそれと同等かそれ以上に、もう一人のボーカル、ミレーヌ・ジーナス(中の人はチエ・カジウラさん)のコーラスが素晴らしい。ヘタをすれば男汁全開の泥くさいナンバーになってしまうところに、彼女の声が混ざるだけでファイアーボンバーサウンドになる。唯一無二すぎる。10年以上前と声が全く変わってない(ように僕には聴こえる)のにも恐れ入る。福山さんだって多少の変化はあるというのに。アルバム全部通しても、チエさんの存在感は非常に大きい。

02.Burning Fire

「カモン!」「イエーイエーイエー!」といった掛け合いから、メロコア風のギターへ繋がっていくイントロ。これまでにはなかったパターンだ。アニメの劇中バンドにこんなこと言うのも恥ずかしいけれど、ファイアーボンバーも変化・成長しているんだなと思った。実際は作曲者が昔と変わっただけのことなんだろうけど。それでもあえて、彼らの新境地をここに見た、と書いてしまおう。昔のファイアー曲だとギター=リードギターっていうイメージがあって、リズムギター部分はあまり前面に出てこなかったけれど、この曲は「瞬く星空 切り裂くように/掻き鳴らせ 轟くPower Chord」と歌詞にもあるように、勢いよくパワーコードで突き進んでいく素直なアレンジが大好きだ。よりギターロックバンドとしてのファイアーボンバーが身近に感じられる。バサラの演奏する姿がイメージできる。誰か僕の脳内映像を現実にしてくれないかね。

04.LOVE IT -A.D.2060-

アルバム『LET'S FIRE』に収録されているミレーヌボーカル曲のセルフカバー。「MY FRIENDS」ではなく「君に届け→」でもなくこの曲とは。僕は好きだから大歓喜。とにかくベースがいい感じです。イントロのフレーズをミレーヌが弾いていると思うと、僕は、ボカァ、もう辛抱たまらなくなるぜ。現実を見ろ? 知らないね。ファイアーボンバーのベースはミレーヌなのだ。ギターとの掛け合いもカッコいい。バンドサウンドやで。サビのベースもぐいんぐいん動いててよろし。歌いながらこんなベースを弾くとは、ミレーヌも上手になったなあ。現実? ハハハちょっとなに言ってるかわかんない。

05.ビッグバン

曲が始まってすぐに思ったのが「なんというHUMMING BIRD感!」。クレジット見てみたらやっぱり福山芳樹作曲でした。しかも奥さん作詞。そりゃハミングバードっぽくもなる。福山さんの凄いところは自分でバサラ的な曲を作ってしまうところだ。このアルバムでは弾いてないみたいだけどギターもうまい。まさにリアルバサラである。福山恭子さんもアニメタイアップ楽曲では作品に合った歌詞をバッチリ作ってくる。すごい夫婦です。

06.Ready Go.

ミレーヌ曲、こちらは新曲です。これもまたベースがキマっている。ミレーヌ曲でベースを目立たせるあたり、製作陣はわかっていらっしゃる。しかしなんといっても一番耳に残るのがギターによるファンキーなカッティング! これは身体が勝手に踊りだしてしまう。あの熱気バサラがこんなリズムギターを弾いてミレーヌをバックアップしてる――そう妄想すると、ニヤニヤが止まらない。気持ち悪くて申し訳ないがオタクのサガというものなのでご勘弁願いたい。バサラとミレーヌがこの曲を演奏しながらアイコンタクトしたりなんかしちゃって! ……うむ、自重しよう。でもホント、さっきも書いたけれど、この『Re.FIRE!!』の楽曲は、メンバーがライブ演奏している姿がハッキリと浮かんでくる。サウンドがより現実のバンドっぽくなったことが大きい。やっぱドラムは打ち込みより人力のほうがノリが出ますよ。

09.PLASTICS

なんかミレーヌのことばっかり書いているような気がしてきた。しかしそれも仕方があるまい。福山さんの声は、マクロス7放映終了後もずっと彼の音楽を聴いてきたこともあって、「15年後の熱気バサラ」というよりは「2009年現在の福山芳樹」による歌にどうしても聴こえてしまうけれど(それがマイナスにはたらいているわけでは決してない)、チエ・カジウラさんによるミレーヌ声は当時とほとんど変わっていないので、ファイアーボンバーの新曲としてダイレクトに受け入れることができるのだ。しかも曲自体のクオリティが非常に高い。アレンジもバンドサウンドを意識したカッコいいものばかり。そういえば昔の僕もノリのいいミレーヌ曲が大好きだった(「恋のマホウ」とか「Sweet Fantsy」とか)。この「PLASTICS」なんて、このアルバムでのベスト・トラックと言ってもいいほどのデキ。シングル・カットしたら普通に売れそうだ。「my baby don't care」はビートルズのオマージュかな? 良いスパイスになっている。アニメで使われることがないのがもったいないくらい。もうこうなったらマクロス7の新作を作ってしまってはどうか。僕は全力で見るぞ。

10.突撃ラブハート -A.D.2060-

ついにきた。『マクロス7』を象徴するバカ熱ソング。「俺の歌を聴けば 簡単なことさ / 二つのハートをクロスさせるなんて」。あまりにも直球でかっこいい歌詞。アレンジが垢抜けてて、これはこれでとてもよろしい。テーローレーローテーローレーローっていうギターのフレーズが2000年代のポップ・ロックな感じ。歳をとって丸くなったバンドが過去の代表曲に対して実際にやりそうなアレンジで、「13年ぶりのファイアーボンバー新作」というコンセプトにバッチリ合っている。2コーラスめのサビ前でブレイクせずにドラムのフィルインを入れて畳み掛けるようになってるところも、いい感じに原曲を「破壊」してる。勢いはむしろ増している印象。福山芳樹個人による『FUKUYAMA FIRE』版アレンジもカッコよかったけれど、こっちも僕は好きだ。ミレーヌも一緒に歌ってこその「突撃ラブハート」。

11.MAGIC RHAPSODY

熱気バサラミレーヌ・ジーナスというダブルボーカルを擁するロックバンドの新曲としてはこういうノリノリなデュエットソングもないとね。正統派ハードロックにバサラとミレーヌを混ぜるだけでこんなにもファイアーボンバーになるのだから、声の力は本当にでかい。Bメロのミレーヌパートが出色のデキ。伸びのある声だ。ていうか最初から最後までチエ・カジウラさんを褒め通してるな僕は。「A Real Rock!」つってサビに突入するあたりに、音楽性は全然違うのになぜかピロウズが重なった。なんか山中さわおが「アゥリアルゥロック!」と巻き舌でキメているさまが想像できたというか。まあピロウズファンでここを読んでくださっている人はもう既にブラウザを閉じているだろうから(笑)、こんなこと書いてもしょうがないけれど。

12.Waiting for you

最後は福山芳樹作曲のバラードでしっとりと、しかし熱く締める。この人は本当にいい声だなあ。

終わりに

こんだけ書いたならもう全曲の感想を書いてしまえばよかったのではと思わなくもないけど、とりあえずこれで終わります。「ファイアーボンバー新作」の名に恥じぬ、声の力、楽器の力、曲の力、その他もろもろ音楽のパワーがたくさん詰まったいいアルバムでした。マクロス7のファンならば買っても損はないと言い切れる。それにしても、ゲームのタイアップで新曲をひとつ作るくらいなら「あるある」と思えるんですけど、まさか新曲満載のアルバムまで作ってしまうとは。超笑顔で「ねーよ」と言いたい。企画を出した人は本当にマクロス7ファイアーボンバーが好きなんでしょうね。この後も続いていくとうれしいな。
書き忘れてましたけど、ジャケットの絵、美樹本さんによるものだったんですね。クレジット見るまで別の人が描いたもんとばかり思ってました。僕の中の美樹本絵とは印象が違った。でもいいジャケットですね。