my way my love@下北沢Heaven's door 06/06/2010

僕にとってこのあいだの日曜日は特別な日だった。ドラマティックだった。「チ」を「ティ」と書くくらい。なんとかあの日の興奮や感動を伝えたいのだけど、どうにもこうにもうまく言葉が出てこない。なので、ドラマティックな日のことを、あえて普通の日記として残すことにした。変に飾ったりして僕の気持ちをもねじまげてしまったら元も子もない。my way my loveという、僕が大好きなロックバンドの話。


日曜日の下北沢は思ったとおり人で溢れかえっていて、いつもの僕ならば「人間が漢字どおりに『人』っていう見た目なら少しはすっきりするのに」などとむちゃくちゃなイチャモンを心の中でつけたりするのだけれど、この日はたいして気にならなかった。というか、マイウェイのライブを見に行くときはいつでもそうだな、と思う。彼らが「ハズレ」のライブをしたところなんて見たことがない。終演後はいつも「やべーマイウェイやべー」状態である。この日も数時間後にはハッピーが保証されている。guaranteed to raise a smile。人混みなんぞでイライラするはずがない。むしろ街行く人々が、みな楽しそうな顔をしているように見えてくる。休日をそれぞれ謳歌しているのだろう。しかし残念、2010年の6月6日を最も楽しむのは、たぶん僕だ。
ライブが行われる場所を確認に行く。現地に着いて僕はびっくりした。盛大に音漏れしている。とあるビルの2階にあるバーが会場だったのだけれど、階段を昇って入り口まで近づかなくても、リハーサルの様子がはっきり聴きとれた。「バーだ」と僕は思った。防音設備がきっちりしているライブハウスではない。普通のバーだ。ライブ時の音のデカさでは他バンドの追随を許さないほどうるせえマイウェイであるのに。大丈夫かしら、とのび太調で心配した。でもそれは一瞬だけで、まあ大丈夫だろ、とすぐに思い直した。なにせ保証されている。しかもヘヴンズ・ドアという名のバー。扉を開ければそこはもう天国なのだ。開演が待ち遠しい。近くのミスタードーナツで時間をつぶしているあいだも、頭の中はマイウェイでいっぱい――というわけでもなく、ポン・デ・リングの食感を堪能したり、前の日に見た『相棒』再放送での激昂した杉下右京の震え方をマネしてみたりしていた。「はいぃ〜?」のモノマネは似ているとよく言われるのに、キレた右京さんは全く似せられないのが悔しい。更なる研究が必要だ。そしてんなことはここに書くことじゃない。
ヘヴンズ・ドアの中は、ゆったりしていた。バーカウンターがあり、ソファーがあり、奥にこじんまりとしたステージがあった。本棚には洋書がみっちりと並べられている。外国に瞬間移動したような気分だ。おしゃれな雰囲気に田舎モノの僕はすっかり舞い上がってしまった。飲んだこともないコロナ・ビールを注文してしまっても無理はない。飲み口にぶっ刺された柑橘類コレどうすんねん、とテンパり、この日初めて話したナイスガイに飲み方を教えてもらった。ビールをひとくち喉に流しこむと、微量のアルコールが身体に染みていき、ふわふわしていた気持ちを落ち着かせてくれた。と同時に、家にいるような心地よさだ。自分の家ではない。でも他人の家でもない。何を言っているのか自分でもわからない。とにかく「家」だ。いい店だ、と思った。
まだイベントが始まってもいないのにこの長さ、先が思いやられる。と言いたいところだが、実はライブ本編についてはそれほど詳細を書くつもりはない。リハ中にやっぱり下のお店から苦情が来て音量を下げざるを得なかったとか、その音量が通常のマイウェイとはあまりにも違うので思わず笑ってしまったこととか、ピッキングの音が聴こえるライブが逆に新鮮でカッコイイとか、とにかくアットホームな雰囲気のなかで時間が過ぎていったこととか、みんなが笑顔だったこととか、コロナうめえとか。印象に残っているシーンは枚挙にいとまがない。なんせ「家」で好きなバンドのライブを観ることができたのだから。今でもあれは夢だったんじゃないかしらと思う。僕があそこにいた時間全てが特別でプレミアムだった。そんなん余さずに書いてたら「いいや2ページほどやる!」では済まない。言うまでもなく楽しかったのだから言うまでもないのだ。詳細を楽しみにしていた人には申し訳ない。
ただ、8月に出るマイウェイのニューアルバムはとんでもなく良いものだ、ということは声を大に、はできないので、キーボードを叩く音を大にして書いておきたい。カチャカチャ。聞こえますかこのタイプ音。そもそもこのライブ――というかイベントは、先日マスタリングまで終わった新譜を僕らリスナーに早く聴いてもらいたいという思いから急遽決定したらしい。出来立てホヤホヤのアルバムを1トラックめから順に、ほぼフルで最後まで聴かせてくれた。途中、ライブで演奏できる曲に関しては即座にその場で披露。なんと嬉しいサプライズだろうか! 9年前に渋谷クラブクアトロピロウズオープニングアクトとして登場して「Air Cruiser」で僕の度肝を抜いてからというもの、ライブのたびに期待を遥かに上回る音を届けてくれてきたマイウェイマイラブの、最新を最速で体感できたのだ。そして当然のごとく、僕の「マイウェイ像」をあっさりぶっ壊してしまった。マイウェイでありながらマイウェイでなく、でもやっぱりマイウェイ。そんな禅問答的な感想を書くことしかできない自分が情けない。1曲目からむちゃくちゃカッコイイのだ。おそらく発売後に全曲の感想をうざいくらいにぶちまけることになると思う。「ポップなアルバムを作ろうと思った」とギター・ボーカルその他の村田氏はおっしゃっていたが、まさにそのとおりのデキで、マイウェイはこれまでも一貫してポップではあったけれど、壁を一枚吹っ飛ばした感がある。「この壁の向こう行ったらマイウェイじゃなくなるかなー」っていうギリギリの線をあっさり飛び越えてしまった。でも着地してみたらやっぱりマイウェイでしたという感じ。着地もバッチリ決まっていて10点満点。……駄目だこれ、伝わらない。早く皆さんとこの思いを共有したい。ファンはもちろん、まだマイウェイに触れたことがない人にもぜひ聴いてほしい。ロックが好きなら大丈夫。むしろ音楽が好きなら大丈夫レベル。その時歴史が動いたレベル。どんなレベルだそれ。とにかく僕はそれくらい衝撃を受けた。ただ一つ不満があるとすれば、発売までの2ヶ月間どうすりゃいいんだっていう贅沢な悩みくらい。イベント終了後にそのまま飲み会みたいな感じになったのだけど、太っ腹にもBGMとして新譜をエンドレスリピートしてくれたので、そりゃもう僕は耳をバンビにして聴いた。覚えて帰ってやる。せっかくメンバーの方々がいらっしゃるのだから思いのたけをぶちまければいいのに、シャイな僕にはそれができず、とにかく聴いた。途中0時を過ぎたあたりで眠気がMAXになり、起きてるのか寝てるのか自分でもわからないあやふやな状態になりながら聴いた。眠気が去ったあと「Golden Monkeys」という曲(リンク先はマイウェイのmyspace)がかかったときに、ベースの入りがめちゃくちゃカッコイイです、とベースの大さんに伝えることができた。僕にしてはかなり思い切った行動だ。ほんとはもっともっと伝えたいことがあったけれど、二歩目は踏み出せなかった。後悔。でも飲み会では村田さんや大さんが話していることを聞いているだけで刺激になった。バンドやってるわけでもない一般ピーポーが「刺激を受ける」だなんて少しおこがましいか。でも受けたもんは受けたのだ。バカ話の中にも、ふっと僕の中に滑り込んでくる言葉があった。
ニューアルバムのタイトルは『New Mars』。誰も本物を見たことがない火星の、新しい姿。僕もいつか自分なりの宇宙服を着て、大気圏を突破してやろう。新しい世界を見てみたい。帰りの電車でうつらうつらしながら、『New Mars』の曲を思い出しつつ、そんなことを思った。