the pillows『HORN AGAIN』全曲感想・前編

HORN AGAIN(DVD付)
ザ・ピロウズのニューアルバムが発売されてからおよそ二週間が経過しました。皆さん聴いてますか? 僕はもちろん聴いてます。おはようからおやすみまで聴いてます。もう何回「ハロー」され「グッバイ」されたかわかりません。これから長々と全曲の感想を書こうと思うのですが、その前にアルバムの総評といいますか、全体的にどんな感じかってのを言っておきましょう。良いです。とても良いです。前作『OOPARTS』もなかなか好きなアルバムでしたが、この『HORN AGAIN』はそれ以上に気に入っています。ここ数年のピロウズでは文句なしに一番です。でも不思議なことに、飛び抜けた名曲ってのは収録されてないように僕は思います。キャニューフィーだったりアイワナビーヨージェントメーみたいに、今後ピロウズの「定番」として、「代名詞」扱いされるほど目立つ曲はない。しかし、だがしかし、ピロウズでしか聴けないような曲ばかりが並べられています。具体的に言いますと、ピロウズのコンポーザーである山中さわお氏の「いらつき」がビシビシと伝わってくる歌詞が多い。僕は最近のピロウズについて、アルバムを聴いてはいますけどそれだけで、インタビューやらは全く読んでませんので、バンドの状況というものがわかりません。てっきり売上も増えてライブの規模も大きくなってハッピームードなのかと思いきや、『HORN AGAIN』での山中さわおは明らかに、何かに舌打ちをして中指を立てている。意外でした。普通のバンドなら「そんな状態大丈夫なの?」と心配しちゃうでしょうが、ピロウズ、特に山中さわおに関しては全く問題ありません。彼は「叩かれてこそ伸びるタイプ」(僕調べ)。ネガティブモードは大歓迎です。どんどん世の中を信用しなくなってください。負の力をギターでぶちまけてください。そういうあなたを僕は信用します。ツノ再び。うまいタイトルです。ジャケの写真も良し。ただHORN AGAINの文字がデカすぎてカッコ悪い(笑)。

前置きが長くなりましたが、そろそろ全曲感想に行きましょう。日本語歌詞の曲からは僕が気に入ったフレーズを抜き出そうと思います。主に「いらつき」部分。待ってたんだ、さわおがヘコむのを(笑)。

01. Limp tomorrow

平穏が風に乗って / 僕の地図畳むんだ

欠けたままでいたいのさ / 満ち足りないまま

静かに、しかし力強く始まるアルバムです。最初のギターの音色、和音の感じ、とてもカッコイイ。その部分を聴いただけで「このアルバムは良いアルバム」認定していまったほどです(そしてそれは間違いじゃなかった)。ドラムの入りもクールですね。ちょっとハイハットを鳴らしてからビートを刻み始める。バッキングに重なるギターのフレーズもシンプルゆえに良い。とても良い前奏です。さっさとライブで見たい。歌が入ってからもバンドサウンドとのバランスが取れててバッチリ(騒ぎすぎるさわおボーカルは個人的に苦手)。「誘ってくれないか」のとこ、「ホホホホホホホホ」てな具合のギターが好きです。酷い説明。同じとこのベースもキマってる。ギターソロも長すぎず短すぎず、真鍋氏丸出し(特に後半部分)で良い。さっきから「良い」しか言ってない(笑)。でもカッコイイんだから仕方ないですよね。
引用した歌詞は初めて聴いたときにいきなり印象に残りました。「みんな連れてくぜ―イェー」とか言ってた人がいきなりどうしちゃったの。「平穏」というポジティブな状態に攻撃される山中さわお節。「欠けたままで〜」の一節なんて、普通一回目のサビと最後のまとめサビで歌われるはずなのに、二回目のサビにまで出てくる。何回「欠けたままでいたい」んだ。外的要因でなく、己の内側に満たされた心地良い感情に蹴りを入れようとしてる印象を受けます。バンドの状況うんぬんにイライラしてるわけでなく、丸くなった自分に疑問を抱いてるのでしょうか。真意は当然わかりませんが。「リーダーなりたかった / そのあげく迷子」ってのもスゴイ歌詞だ(笑)。いやアンタ、笛吹いてみんな連れてこうとしてたやん、っていう。そのあげく迷ったんかい。いいぞ。もっと迷おうぜ。Let's get lostがピロウズのシークレットスローガンだったはずだ。

02. Give me up!

ノリノリのアップテンポナンバー。リフとバスドラで身体がウズウズしてきちゃいます。その後のドドドドっぷりが気持ちいい。弾けてる。この曲で一番好きなのはなんといってもギターソロ前の演奏です。佐藤シンイチロウ氏は本当に僕好みのフィルインをぶちかましてくれる。ただ単に僕が佐藤ドラムに調教されてるだけっていう可能性も否定できませんが。「ダタタダタタダタダン!ダンダララララララ!」。カッコイイ。またしても酷い説明。曲調だけ聴いてると、最近のピロウズっぽい「オレ絶好調!」なロックナンバーなんですけれど、前の曲で負の感情が地表からオデコ出しちゃってるせいか、「オレ絶好調! のはず!」っていう少しばかりの「つよがり」を感じます。ギブミーアップだし。

罪悪感は飲み干した / 無敵になれそう

なれ「そう」(笑)。

03. Movement

ジャーン! タカタカタカタカからピロウズのイメージとはちょっと遠い感じの、しかしかっこいいギターリフ。前の曲からの繋がりがビシっとキマってる。同じ曲が続いているように聴こえつつ違う曲(当たり前だ)。何が言いたいかというと、シングルなのに全く浮いてなくてアルバムに溶け込んでいるなあと。こういった「流れ」を楽しめるのもアルバムならではです。シングル買ってねえからそう思えるのかもしれませんが(不届き者ここにあり)。この曲、上手く表現できないんですが、なんか好きです。ギターは基本ジャカジャカ弾いてるだけだし、僕好みのドラム・フレーズがあるわけでもなし、ギターソロに入るところは若干野暮ったい。しかし聴いてて「気に食わねーな」と思う部分が不思議と見当たらない。ミックス的にあまり目立たない真鍋氏のサイドギターが効いてるんでしょうか。気持ちいいんですよね。感情として「カッコイイ」よりも「気持ちいい」が先にくる。歌詞はけっこう切羽詰ってるんですが(笑)。晴れた日にまっすぐな道で自転車をシャカシャカこいでたら飛行機雲が見えて、どこにでも行けそうな気になるあの感じ。「My forward movement」。まさに。

僕らは走りだした / 小さな風生み出して

シンプルだけど、とてもいい歌詞だと思います。

04.Lily, my sun

恋はどんなふうに / 胸から離れるんだっけ
思い出せないくらい / キミが好きだよ

まだ四曲目ですが、僕的ベスト・トラック。とてもいい曲です。山中さわおご開帳の片思いラブソング。これも「Movement」と同じで不思議と好きなんですよね。好きな理由がパッと思いつかない。メロディーは抜群に良いのですけれど、バンドサウンド的にフックがないというか、ヒネリがない。でもそれは決して悪い点じゃない。僕は以前のピロウズ感想で、佐藤シンイチロウのドラムに関して「あまり目立ちはしないが曲を活かすためのドラムをわかってる」みたいな偉そうなことを書いた記憶がありますが、この曲はバンド全員が佐藤シンイチロウ状態になっているように思えます。山中さわおが書いたメロディーをシンプルに伝えるために、過剰な装飾を避けている。そしてそれは(僕に対しては)素晴らしく成功してる。曲の構成もストレートです。Aメロがあり、Bメロがあり、サビがあり、ソロがあり。定石通り。結局、旋律を際立たせるには変に色々手を加えないほうがいいんですよね。僕はそう思います。よくオッサン集団ピロウズについて、「いつまでも若い感性をもっててスゴイ」みたいな語られ方をしてるのを見かけますが、年を食ってないと、このメロディーをいい意味で地味な曲に仕上げられませんよ。オッサンが若いふりしてるわけじゃない。徹頭徹尾オッサンバンド、ザ・ピロウズ
サウンド的に聴きどころがないとかホザいておいて、ギターソロがスーパー好きだとこっそり主張してみる。「I love you so, my sunshine」のとこのドラムもスーパー好きです。この曲スーパー好きです。

05.Biography

アゥイエー。僕の中でここからアルバムの後半です(早い)。真鍋氏がライブで腰をいやらしく振ってる図が目にうかぶようなギターの変態具合がたまりません。「キュエー」とか「ええ〜?」とか「ママママムー」とか「テレテレテレテレ」とか、もう言葉を発してしまっているレベルのフレーズ・音色。極まってる。んでそのギターを総括して放たれる「アゥイエー」(ちょっとオウイエー入ってるのが気に入りませんが・笑)。久しぶりにダサかっこいいサウンドが成功してるピロウズです。「バンドマンのバイオグラフィー」って直接的に言っちゃってるのは少し引っかかりますけど、まあ些細なこと。

思い通りにならない未来を / 塗りつぶして星を落書きした

誰にどんな事を言われても良い
キミ自身がどう在りたいかだ

うむ。

読んでくださった方、お疲れさまでした

全曲感想の前編はここまで。後編はこちらへ(http://d.hatena.ne.jp/mikadiri/20110212)。