あだち充と僕、あるいは化学式としての水分

さて出かけるか、と玄関に向かったらいきなり靴下にひんやりとした感覚を感じ(頭痛が痛い的レトリック)、はて、ところてんでも湧いたか、と思って床を見ると一面地味に水浸しに。いや、マジで地味に。目立たない程度に水浸し。洗濯機がついに反抗期を迎えたか、と思って洗濯機にかかと落としをかましてみたんですが、彼は「ガッフ!」って言っただけで別に水を漏らしてはいませんでした。天井を見てみましたがこれも異常なし。上の階からの浸水、というわけでもないらしく、僕は腕を組んでううむと考え込んでしまいました。いったいこの多量のH2Oはどこから発生したのか。いつのまにH2Oはここまで想い出がいっぱい状態になっていたのか。いつのまにH2Oはここまで大人の階段を昇る君はもうシンデレラ状態になっていたのか。答えは出ません。「ふるい〜アルバムのなかぁ〜に〜」と必要以上にコブシをきかせて鼻歌ってみたものの答えは出ません。
やれやれ、と僕は呟き、気を落ち着けようと冷蔵庫をあけ、麦茶を飲もうとしました。冷蔵庫のドアを開けた瞬間、ジャー。ジャー? 何の音? ジャージャー。麺? と連想ゲームに耽っているとみるみるうちに冷やしH2Oが足元を蹂躙していき、僕は呆然とそれを見守っていたのであります。僕の部屋の冷蔵庫はもともと備え付けになっているタイプで、つまり冷蔵庫のミニチュアと呼んでも差し支えないほどのヘッポコリンさを誇っているのですが、小さい――これじゃ冷凍庫なんかつける余裕はない――じゃあ冷蔵庫の中にそれらしいスペース作っちまえ――と、つまり先人達をして逆転的発想による技術的進化を遂げさせたタイプの冷蔵庫なのであります。冷凍庫とはいいつつもそれは「庫」と呼べるようなシロモノではなく、製氷器をかろうじて一つ滑り込ませられるくらいの幅しかなく、甚だ役に立たない、これぞまさに絵に描いた持田香織というか、とにかくそのような具合でございまして、そのくせ霜だけは一丁前に育ててくださり、冷蔵庫内でツララが伸びるという奇妙な現象を僕に提示していてくださったわけですが、まあ、とどのつまり、その霜が鬼のように溶けてH2Oとなり、幸せは誰かがきっと運んでくれると信じていた僕の部屋にH2Oを運んでくれたのでありました。
幸い僕は冷蔵庫にモノをあまり貯蔵しない畑の人間だったので直接的な被害はないんですが、暑いと暑いと思っていた陽気が冷蔵庫内の霜さえも溶かすほどの威力を持っていたとは、などと、フェーン氏(現象分野でここ最近台頭してきた人)に対し感嘆の声を漏らしたのであります。暑いんだよ馬鹿!(これが言いたいだけ)