竹槍バンガロー

豆をまくこともなく、恵方を向いてマトリョーシカを丸かぶりすることもなく、ただただボケーとしているだけでも日々は過ぎていくのでございます。「鬼は外、福は内」など言いますが、鬼さんというのは基本的に半裸でございまして、半裸のまま2月の寒空の下放り出されてしまったらこれはきつい。寒いなどという次元の話ではない。痛い。風痛い。オナモミの実で作られた全身タイツを着た状態でモミモミされるくらいの痛さ。尋常じゃない。地獄をくまなく巡ってみてもこれほどまでに厳しいアトラクションはあるまい。否応なしにしもやけになってしまう。それなのに人間は豆をぶつけて追い出します。職業に貴賎なし、という格言は嘘だったのか。鬼がどれだけ辛い仕事か、わかっているのか。彼らの履歴書を見たことがあるのか。職歴欄を見たことがあるのか。「鬼 以上」だ。彼らは誇りをもって鬼(おに)っているのだ。どれだけ迫害されようが鬼をやめようとはしない。いつか、いつの日か、胸が膨らむちょっと前の可愛い女の子に「おにーちゃん」と呼ばれるその日まで、彼らは鬼であり続ける。「おにーちゃんこちら、手の鳴るほうへ」とコバルト系文化系眼鏡系黒髪系クラスではちょっと目立たない系でもアッチ方面には興味津々系妹に笑顔でささやかれるまで、鬼は寒風に耐え続ける。「おにーちゃんそんなところなめちゃやだあ……」と。「おにーちゃんのおっきい……」と。「おにーちゃんに全部あげる……」と。「おにーちゃ、あたし変になっちゃう、こわいよぉ、ふぇ、ふえええん」と。言われるまで。妹に。
すいません鬼ってどうやったらなれるんですか?