風に吹かれて

どうも休みの日はアホのように寝てしまう。12時間睡眠が普通になっているという状態はあまり好ましくないように思われる。だいたい午前一時にのそのそと起き上がってきて、いったい僕は何をしようというのか。何も出来ない。ためしに外に出てみようと思ったが、ビュワオビュワオと風が吹いていて、物凄く、それはもう物凄く寒そうだ。考えてみてほしい、暖かい布団から脱したばかりの人間にとって冬の北風がどれほど寒そうに感じるか。想像の域を超えている。こんなときに外出なんて、するものか。僕は思った。そして外出した。強風に煽られて女子高生のパンティーが拝めるかもしれないからだ。当然、女子高生はおろか人っ子一人歩いていなかった。よく考えてみろ、今は午前一時だ。僕は悲しくなった。酔っ払ったおっさんが道端に粗相しているのが見えた。彼の頭髪は強風に煽られ、今にもフライ・アウェイしてしまいそうだった。リポビタンDだ、と思った。毛根と毛穴の接点で、今まさに「クリフ・ハンガー」ばりのアクションが行われているのだ。しかしいくら強風に耐え切ったときしても、おっさんが家に帰って洗髪してしまえば、無常にもそのリポビタン毛髪は排水溝へと流されていく。
僕は煙草に火をつけようとした。オイルを入れたばかりのジッポはやる気満々に点火され、火柱が風に吹かれて親指を焼いた。「アッチ!」と思わず叫ぶと、例のおっさんが「ドッチだコノヤロー」と呂律が回らない調子で答えた。その「アッチ」じゃないのよ、とおねえさん口調で説明しようかとも思ったが、おっさんは既に路上にぶっ倒れて「酒と泪と男と女」を歌っていたので、僕は火のついてない煙草を口先で弄びながら、ひとり、家路についた。