the pillows 『90's MY LIFE returns』

mikadiri2004-05-25

二ヶ月前に買ったアルバムですけど、ピロウズファンとしてスルーしておくわけにはいかないので色々と書かせていただきます。
さてこのアルバム、ピロウズの新作というわけではありません。インディーズ時代に自主制作盤としてリリースした『90's MY LIFE』というアルバムに、未発表音源なんかをいくつか追加した、いわゆる復刻版です。オリジナル盤はファンの間ではレアアイテム扱いされていて、オークションでも異常な高値で取引されていましたから、この復刻は嬉しいばかり。もちろん、僕も喜んで買いましたよ。
さて、肝心の内容。良いものです。とても良いものです。このときはベーシストの上田ケンジさんが健在で(当たり前か)、四人編成であったピロウズ。今みたいなゴリゴリのギターロックではなく、ギターの歪みを抑えた――誤解を恐れずにいえば「軽い」ブリティッシュ・ロック。しかしバンド結成二年目くらいの時期に録音されたものばかりですから、やはりテンションは高いですよ。特に注目すべきは、若かりし日のボーカル山中さわお
35歳になった今でも若干世間にイラついて生きているような彼ですから(最近はヒットチャートを見てもあまりムカつかないらしい)、15年前、つまり20歳の頃は当然、とんがりにとんがりまくっているわけです。それは歌詞面に如実に現れているといえるでしょう。タイトルだけ見ても、「ぼくはかけら」「NEVER FIND」「僕の声が風に消されても」「僕はアウトサイダー」と、オブラートなんて一切かけられていないヒリヒリした直線的な言葉が並んでいます。「僕はアウトサイダー」なんて、思ってても言いませんよ普通(笑)。メジャーデビューしたあとはこのようなストレートな曲名はあまり出てきません。やっぱりストップかかったんでしょうかね。
一曲目「巴里の女性マリー」、チャップリンの映画『巴里の女性』にインスピレーションを得て書かれた名曲。軽快なリズム、透き通るような真鍋氏のギターフレーズ、山中さわお節全開の「フラれちゃったけどボク諦めきれません」的歌詞(笑)。今後のライブで是非演奏して欲しい。
二曲目「ぼくはかけら」。ピロウズのファンには説明はいらないでしょう。最新アルバム『ペナルティーライフ』で、ボーナストラックとしてセルフカバー収録されていた曲です。単純にカッコイイですね。それゆえにここで特筆すべきこともあんまりありませんね。『ペナルティーライフ』バージョンと聞き比べてみるのも一興です。それほど大きなアレンジの違いはありませんけどね。
五曲目、タイトルナンバー「90's MY LIFE」。ピロウズを結成して間もないというのに、あまりにもネガティブなさわおの「90年代展望」が唄われております(笑)。しかしもちろん、否定的なことばかりではありません。“イヤな事やがまんできない季節もくるだろうけれど / 仕方ないさ 僕らこの道しか知らないんだ”――「この道」、すなわちバンドですね。この頃から既にロックに無期懲役だったんじゃねえか、と突っ込みたくなります。曲調は軽め。シャッフル・ビートにのせたキラキラリズムギターが良い感じにマッチしてますね。アルバム全体に言えることですが、歌詞と曲調は噛みあってません(笑)。
六曲目――ここからはオリジナル盤に追加された音源です――「ジングル・ベルがきこえる」。ピロウズには珍しいというか唯一無二のストレートなクリスマス・ソングです。曲中で「もろびとこぞりて」のフレーズがギターで弾かれていたり、「ランランランラン」とコーラスしてたり、楽しい雰囲気です。しかしそこは我らが山中さわお、楽しいまま終わるはずがない。“独りぼっち部屋のベッドの中で / こんな日なら来なけりゃいいって思ってた”“精霊達はたずねて来なくたって / 思い出してよステキな言葉を”――と、またフラれてますこの人。まあ日頃から「人の決めたお祭りに参加する気にはならない」「記念日は自分で決める」と豪語してらっしゃる方ですから、クリスマスに対しても「ケッ!」としか思ってなかったのでしょう。まだ20歳の頃だし、それくらい青くて当然ともいえます。
七曲目「こんな日が続けばいいのに」。これまた歌詞は鬱なんですが(またフラれてます)、曲自体はハーモニカを大胆に取り入れたアレンジになっていて、ピロウズとしては珍しいタイプの曲になっています。なんかNHK教育テレビに使われそうなほのぼのとした雰囲気。まあ歌詞は“今何時だろう 腕を見ても / 君にもらった 時計はない”ですから、全然ほのぼのじゃないんですけどね。


とまあ長々と書いてきましたが、やはり結論としては「ファンアイテム」でしょうね、このアルバムは。ピロウズのことをある程度聴き込んでいて、山中さわおという人間に興味がある人じゃないと、あまり魅力を感じないかもしれません。まあそれがわかっているからピロウズサイドも「ライブ会場販売&通販限定」という形でリリースしたのでしょうけど。しかしどの曲も現在のピロウズに通じるパワーを持った粒揃いであることは間違いありません。『MOON GOLD』『WHITE INCARNATION』あたりが好きな人には間違いなくオススメ。そういえば来月に出るピロウズのセルフカバーアルバムに「巴里の女性マリー」が選ばれてないことに怒っているのは僕だけですか。今のピロウズがあの曲を演奏したらそれはもうすばらしいことになるのは間違いないのになあ。


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