ロール・オーヴァー・ベートーベン

ピロウズばかり聴き、スクービーばかり聴き、マイウェイばかり聴く日々。気づけばゴールデンウィークは過ぎ去っていた。僕にお茶菓子の一つもなく、もちろん挨拶もなくどっかに行ってしまった。でも全然悲しくはない。むしろ充実していたのである。超高速で僕の中の果実が熟れていっていたのがわかる。旅行とか遊園地とか行楽とかさっぱり出かけていないけれども、毎日が輝いている。全ては音楽のおかげだ。音楽は本当に楽しい。もはや音楽というか俺楽である。楽しい俺である。プレジャー俺である。ピロウズやマイウェイの良さを皆さんにとっても伝えたくて、感想を書こう書こうと思っているのだけど、なんか「いいよーいいよー」と思ったものに関してはなかなか言葉が出てこないので困る。このバンドたちは「いいよーいいよーじゃあ次このポーズいってみようか」と僕が注文つける前にさっとポーズをとってくれる。文句つけたいデキだったらガンガン書いてるだろうに。つくづく自分の性格の悪さが大好きである。まあ焦らずに、今は音楽に浸るとしよう。

さて、そんな素晴らしい俺楽に囲まれていると当然外でも聴きたくなるわけで、愛しのiPod shuffleさんに三枚のアルバム(と涼宮ハルヒの歌)を突っ込んでいるわけだけど、先日イヤホンがぶっ壊れてからというもの、代えのイヤホンのせいでイマイチ夢中になれない。聴いていてそんなに楽しくない。流れてくる音楽は僕を夢中にさせるのに、耳から生える白い何かがものすごい勢いで僕を夢から覚ますためにザメハを唱え続ける。iPodの純正イヤホンは本当にビミョーなシロモノだ。別に悪いとは思わないけども、絶対に良くはない。ビミョーだ。音はもちろんのこと、つけてると何故か悲しくなってくるというオマケまでついている。両出しのコードは「幼女を見かけたらすぐにお医者さんゴッコをするのだ!」と僕に囁き続けているようで、いつしか「幼・即・ゴ」の信念が植えつけられ、そう、逮捕されてしまうかもしれない。これではイカン、と一念発起した僕はヘッドフォンを買うことにした。落ちぶれても元下流家庭の貧乏っちゃまであるので、外出用のものにそこまで金はかけられない。1万円以内でどうにかせねばなるまい。HD25という外でも使える遮音性に優れた機種を持ってはいるが、あれはアレだ。「なんだアレ」と言われる見た目だ。

1万円以内のもの。今まで試聴した経験で考えるに、オーディオテクニカはない。ソニーもない。Victor、そうヴィクターは武装錬金的に危険だからパス。音楽聴いているうちにだんだん肌が黒くなって「戦え! 戦え! 戦え!」とかなったら悲惨である。斗貴子さんに後ろから抱きつかれてしまう。いいね。早く買おう。可及的速やかに注文しよう。ではない。斗貴子さんは現実には存在しないのだ。それにヴィクター化したら変な人たちに追い回されて殺される。何度も何度も殺し続けられる。そんでそのたびに斗貴子さんに人工呼吸かまされ一心同体宣言されていいね。早く買おう。
だから違う。僕は現実でヘッドフォンを買おうとしているのだ。
色々検討した結果、AKGのK26PとSENNHEISERのPX200が候補にあがった。どちらもこの価格帯でポータブル・ユース目的ならば必ず名前があがるド定番機種だ。僕は定番が大好きだ。ド定番はもっと好きだ。SENNHEISERは先述のHD25を持っているので、ここはAKGにトライするべきか。値段も安い。オーストリアのメーカーなので「アーカーゲー」と読むが、なんか、いい。K26Pは「カーツヴァイゼックスペー」と読むのか。ドイツ語は数字の読み方が独特だと聞いたので間違っているかもしれない。でもなんかツヴァイゼックスってカッコイイ。カーツヴァイゼックス。なんか東北の人が編み出した新手の車内性交みたいで淫らだ。大人の雰囲気だ。そこにペーが続く。盗撮されそうだ。ゾクゾクする。ムクムクする。股間部付近でエア・トロンボーンをしたくなる。ドからドのオクターブを三回往復したら先っぽからイッヒリーベディッヒ、歓喜、第九――
さて僕は何をどうしようとしていたのであったか。