the pillows 『HORN AGAIN』全曲感想・後編

HORN AGAIN(DVD付)
前編はこちらです(http://d.hatena.ne.jp/mikadiri/20110209)

06.Sad Fad Love

このアルバムにおける僕的ベスト・ギタープレイを聴ける曲です。テレレロレロレロレレと印象的な前奏はもちろん魅力的ですが、特に僕がイチオシしたいのは歌が始まってからサビに至るまで、控えめに曲を彩るギター。とても優しい音です。真鍋氏のプレイは、ゴリゴリなロックナンバーよりも、こういう大人しめの曲で際立つと常々思っています。「Sad Fad Love」はまさに本領発揮といったところ。音自体はドライというか、ちょっと乾き目な感じなのですけれど、メロディ自体にみずみずしい力があって、非常に心地良い時間を僕に提供してくれます。英語詞の歌であることもプラスになっているかもしれません。さわおが何歌ってんのかようわからんので(笑)、ボーカルも楽器のひとつとしてサイドギターと対等に響いてくる。うん、いい曲です。ただ歌詞カードを見ちゃうと、「heard」を明らかに「ヒアー」って発音しちゃってたり、フォールインラブフォーだったり、色々首をひねってしまう要素が浮かんでくるんですが、真鍋氏のギターに耳を傾けてウットリしていると、だんだんどうでもよくなってくる。歌メロは非常に好きなんですけどね。ハモリ入れる箇所や音程も独特で面白いですし。「アーイノウ」って「イ」が上がるとこなんて結構グッときます。
あと佐藤シンイチロウ信者としてはドラムスにも言及しておかねばなりません。基本はザ・エイトビートといった感じですけど、やはり要所要所でチラっとカッコいいプレイをする。41秒あたり(「Is that because I'm in love?」のあと)で聴ける一瞬のオープン・ハイハットなんてニクイ。サビに突入するときのフィルインも、なんでもない普遍的なフレーズなんですけど、スネアのタイミングが僕の感性と全く一緒なんですよね。初めて聴く曲でも、「おっ、サビだなここから」ってなんとなくわかるじゃないですか。そんとき自分勝手なタイミングで首振ってたら「タンタン・ツタン・ツタン」ってフィルインと完全に一致してビックリしました。これ眉唾でなく本当の話。どんだけ俺は佐藤ドラムを愛しているのかってセルフツッコミをかましたくなりました。2コーラスめでもニクイプレイをさらりと入れてきたりして、ほんとあの風貌からは想像できない極め細やかさであります。大好き。別冊マーガレット風に言うと、だいすき。

07. Nobody Knows What Blooms

色々と音が遊んでて、にぎやかな印象を持った曲。今度はベースが聴きどころ。サビ以外ではベースが主役なのではってくらい前面にでてきたミックスが施されています。エフェクトかけたベースってあまり好きじゃないんですけど(シールドをアンプに直繋ぎ萌え派)、この曲ではアリかなと。なにせ文字どおり「ベース」になっているので、多少音をぶっとくしておかないと曲自体がしんなりしてしまう。イメージ的にはベースという「幹」に、ギターやその他もろもろのSEが「葉」もしくは「花」としてくっついてきてる感じ。タイトルとか歌詞を読んでこじつけをしたわけじゃないですよ、一応(笑)。ずっとハネ気味だったベースが最後らへんでルート弾きに移行するのはベタですけど上手い演出です。あとですね、もはや「うるせーよ」ってお思いになるかな、佐藤シンイチロウさんがいいスパイス効かせてくれているんですよ。細かく抜き出すとそれだけで文章パンパンになってしまうから自重しますが。もう冒頭の「タン!」でこちとら「アン!」ですよ。感じますよ。ビショビショですよ(ピロウズ感想を書くときは下ネタ避けようと思っていたのにしんちゃんの馬鹿野郎)。

夜も決して目を閉じないのは / 僕と魚だけ
夢が地上に落ちる瞬間を / 見続けてるんだ

好きな歌詞です。この歌で残念なのは、サビが英語であること。日本語でこんないい歌詞かけるんだからサビもなんとかしてほしかった。このアルバムでのさわお英語はいつにも増して発音がデロデロで何を言ってるのかが本当にわからない(笑)。「just」の「t」を発音しちゃってるのも、細かいことだけど気になっちゃう。英語詞にしたいのか、それともカタカナ英語でやりたいのかどっちなの。いい曲なだけに気になる。

08.EMERALD CITY

わりと軽めの曲が続いてきたのでここらでロック一発! なアルバムとしてのバランスをとっているエメラルド・シティ。某ミッシェル・ガン・エレファントピロウズフュージョンしたらこんな楽曲出来ましたみたいな。酷い例えだ。他バンドを引き合いにだして評価するのは山中さわおが一番嫌うことであるぞ! よし、率先してやりましょう(最低)。この曲に関してはあまり書くことがないかもしれません。カッコイイとは思いますがね。普通にカッコイイ。ピロウズのロックバンドとしての地力をそのまま発揮している。

09.Brilliant Crown

アルバムの中で唯一といっていいゆっくりめの曲。

誰一人覚えてない / 記念碑を壊す夜
信じてた誓いの旗 / 破れてもう黙ってる
こんな日が来る事も / 覚悟していたけれど
曝されて奪われて / 空っぽになって震えてる

本当は全部書き出したい。ひとりぼっちの「王様」にスポットをあてた寓話的な歌詞によって若干マイルドになってはいますが、山中さわおの吐き出す毒の量が半端ではありません。ここ数年のアルバムにも「孤独」を歌う曲はありましたけれど、この王様の物語からはポーズではない本気を感じます。ピロウズ解散するんじゃねーのかオイオイと焦ってしまったくらい僕の心にはズシズシきました。「雨上がりに見た幻」からたった一年でここまで対極に位置する曲を発表するものか? 幻は結局のところ幻にすぎなかったのか? 普段は歌詞に対しての深読みを避けて音楽を聴こうと心がけているのに、ボーカルを目立たせる曲のシンプルなアレンジのせいもあるのか、歌が入り込んできてしまう。「誰の記憶にも残らないほど鮮やかに消えてしまうのも悪くない」と強がっていた頃とは違い、多くの人の「記憶」に残ってしまったがゆえの、残り続けていく難しさ。『HORN AGAIN』には「迷う」という言葉がちらほら出てきます。以前の自分を超えられるともちろん信じているけれど、本当にそれができるのだろうか。できているのだろうか。山中さわおは今揺れているのではないでしょうか。他人を音楽で振り向かせることはできた。でも自分はどうだ? あの頃の自分は今の自分を見て「いいじゃん」と言ってくれるだろうか? んなこたーわからないわけですよ。答えなんて出ないわけですよ。胸の中に「輪郭のない月」のような掴みどころのないものが住みつくんですよ。誰だってそうです。それをギターを使って引っ張り出すのがミュージシャンなわけで、これだけ僕に響く曲を書いてくる山中さわおは間違いなく正しい。どれだけ迷ったってピロウズで音楽作ってさえいれば正しい。たとえそう思うのが僕だけだとしても。全肯定する。なにせ僕が出会った初めての、そしておそらく最後の「僕のための」バンドなのだ。どれだけショッパイ曲を作っても構わないから、ピロウズでいてほしい。そんなことを思いました。

10.Doggie Howl

ラストはデリシャスレーベル移籍直後のヌードルスを思わせるようなギターで始まるナンバー。ギターソロの締め部分が好きです。ジョーワッジョワッジョーワジョワジョッ。またしても酷い擬音で申し訳ない。佐藤ドラムも、もはや言うまでもなく素晴らしい。ドラムス的クレッシェンドが本当にうまいですよね。曲を支え導くリズム。「ウイーイーウー」も良し。終わり方も潔い。良いアルバムのラストに良いロックンロールあり。とまあ、曲調はポップなのですが、これまた歌詞カード見ると凄い。『HAPPY BIVOUAC』のラスト「Advice」なみに、いやそれを凌ぐほどキレてます。「Advice」は曲もキレてたので、わかりやすい。あーはいはいさわお人間ちっちゃい(笑)、と笑い飛ばせました。しかしこちらは一見温厚で実はナイフ隠し持ってます的怖さがある。ほんと、いったい山中さわおに何があったのでしょう。これほど中指をピンと立てて敵対心をあらわにしている彼はひさしぶりです。カッコイイ曲なのでライブで聴くのが楽しみなのですが、「イエー!」とか言って喜んでいいのでしょうか(笑)。ま、歌詞から深読みするのはもうやめにします。ネガティブな想像をしたって無駄なだけです。カッコイイ曲。それでいい。それでじゅうぶん。ロックバンドなのだから。

最後に

以上、僕の偏見たっぷりの『HORN AGAIN』全曲感想でございました。長くなってしまいましたけど、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。「何をほざいてんだこいつは」と思った部分もあるでしょう。どうかご勘弁ください。ただの感想です。アルバムの総括をここで書こうと思っていましたが、もう全部残らず出しちゃったみたいです。『HORN AGAIN』、いいアルバムです。ライブも早く見たいものです。それでは皆さん、新木場STUDIO COASTで僕と握手! また会う日まで。ピロウズ好きだぜ。