小説

聖夜と青年

実家を出て一人暮らしを始めてから、どういうわけか僕のもとにサンタクロースが来なくなった。それまではイブの夜に寝るだけで、翌朝きちんと僕の欲しいものが枕元に置かれていたというのに、働き始めて自立の道をゆっくりながらも歩きはじめた途端、クリス…

ショートホープを口にくわえて

全身鏡には格好いい男が映っている。細身だ。無駄な贅肉がない。かといって、痩せているわけでもない。筋肉はつくべきところにつくべき量が、一流ホテルの調度みたいにきちんと備わっている。両手を腰におき、堂々たるポーズだ。ポーズというよりポオズと表…

「銀河」

「まよなか」彼女は雑誌を読みながら唐突につぶやいた。正確にはわからないけれど、遅めの夕飯を食べ、クラシック音楽をバックにヨーロッパの街並みが淡々と画面に流れるテレビ番組を見たあと、やることがなくなってしまいなんとなく二人して本を読み始めて…

東京へ行きたい

夜露に濡れた雑草がほてったお尻をやさしく包み込んでいる。隣に座る彼女の臀部もきっと、ささやかに、草原のもてなしを受けているにちがいない。僕らは並んで座り、星を見上げている。雲ひとつない空だ。数え切れないほどの小さな輝きが頭上にある。 「こう…